小説(リボーン)短編

□ティータイム
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部屋に戻った千種。
うつ伏せでベッドに倒れ込む。
だが、眼鏡がくい込んで少し痛かったので起き上がってベッドの上に座った。
今考えると犬が来てくれて助かったかもしれない。
犬が来る直前、自分が言おうとした言葉―――・・・
 

   ―――また来れば・・・
 
 
ありえない。
いくら自分が淹れた紅茶を何杯も飲んでくれたからって。作ったクッキーを褒めてくれたからって。
・・・部下じゃなくて自分で来ればいいのに・・・なんて考えてしまった。
 
やめよう。これ以上考えるのメンドイ。
・・・なのに何故か頭から離れない。
目つきが悪いくせに話すと意外に普通で。
紅茶を飲む時に後ろに流した長い銀髪は見るからにさらさらで綺麗で。
驚いた顔やぎこちない動作は少し笑えて。
そして最後にお礼を言った時に一瞬笑った顔は・・・すごく、こっちが照れた。
 
 
・・・今度は甘くないパイでも作ってみようか―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ヴァリアー拠点地。
 
とりあえずボスに殴られる事も蹴られる事もなく済んだ。
うちのボスは所構わず機嫌だけで殴る蹴るをやるから困る。
しかも何故か被害は自分にくる事が多い。
 
「はぁ〜・・・」
 
最近、ため息をつく事が増えたかもしれない。
だが今日は柄にもない言葉を沢山言った気がする。
 
「あの紅茶とクッキー、うまかったなぁ・・・」
 
それにあの柿本とかいう奴。
あいつがいなかったら今ごろは他の幻術師探しで走り回っていただろう。
関係ないはずなのに。メリットはないはずなのに。
ふと、あの無表情で、美味しい紅茶を淹れたりクッキーを焼いたりしているところを想像する。
・・・自然と笑えてきた。
そういえばあの騒がしい奴が来る直前、何か言おうとしていたような気がする。
気にならないといえば気にならないが、気になるといえば気になる。
 
この後、部下に行かせないで自分で行こうか。
別にあの柿本が気になる訳ではない。
ちょっともう一回あの紅茶とクッキーが食べたくなっただけだ。
 
 
 
そう、決してあいつに会いに行く訳ではない―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「骸様、拗ねないで・・・」
 
「そうはいきますかっ。綱吉君とのデートが1日先延ばしにされたんですよ?!全く千種ときたら、一体何を考えているのやら」
 
「大丈夫骸様、ボスとデートするのは私だから・・・」
 
「ちょっ、クローム?!君は誰のお陰で今ここにいると思っているんですか?!」
 
「だってボスは私とお出かけしたいって・・・」
 
「クフフフ、照れているんですよ綱吉君は。そんなウブな所も可愛いですねぇv」
 
「・・・骸様、ズルイ・・・」
 
「何とでも仰い!!あぁ、綱吉君はどんな店が好きなんですかね?無難に可愛いもの好きというのもいいですが、見かけによらず渋い趣味というのもそそられます♪それとも意地をはって男らしい店に行くんでしょうかね?クフフフフフv明後日が楽しみですv」
 
 
 
 
そんなクロームと骸の会話をドアの隙間から覗いて聞いていた犬。
実際は骸の声は聞こえずクロームの独り言のように見えるのに、何故か骸の言っている事が手にとるようにわかった。
 
「・・・なんか、こん中で常識人って俺だけだびょん」
 
そういう犬も周りに負けない程マイペースで非常識人だという事を彼に教える者は誰もいなかった。
 
 
 
 
 
→後書き
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