小説(リボーン)短編

□その意味は
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「おまえが雲雀恭弥か」
 
「……誰?」
 
 
出会いは、突然だった。
 
指輪の意味なんてどうでも良かったし、気にもならなかった。
ただ、いきなり現れたイタリア人に目を奪われた。
 
 
 
 
「キョーウーヤー」
 
「……………」
 
「キョウヤ?」
 
「…………………」
 
「恭弥ぁー?」
 
「……………………………………ちょっと、下の名前で呼ばないでくれる?」
 
「え〜?だってファーストネームは恭弥だろ?」
 
「そうだけど……なんか呼ばれ慣れてない」
 
「いいじゃんいいじゃん」
 
「ヤだ。普通に雲雀にして」
 
「ヒバリン?」
 
「ヒ・バ・リ!」
 
「ヒバリン」
 
「…………ねぇ………それわざと?」
 
「いやっ、なんかフルネームになるとサラっと言えんだけど、ファミリーネームだけだとどうも……」
 
「ヒ・バ・リ!」
 
「ヒ・バ・リン!……あれ?!」
 
「はぁ〜………」
 
 
思えば、最初から馬鹿だった。
 
あの後どうしても直らなくて結局下の名前で妥協したが、やっぱりなんだかむず痒かった。
 
 
 
「恭弥〜」
 
「恭弥ぁ〜っ」
 
「恭〜弥〜っ!」
 
「……………」
 
どんなに無視してもついてくるし、その笑顔が変わる事はない。
 
何故、どうしてそんな顔で僕の名を呼ぶの。
周囲は怯えた表情しか向けないというのに…。
風紀委員でさえ、僕がちょっと睨めば恐怖した顔になる。
 
でもこのイタリア人の顔は、恐怖を浮かべるどころかますます笑顔になるだけ。
信じられない。
 
家庭教師だと言って僕を鍛えた。
悔しいが彼は強い。
どうしても咬み殺せない。
絶対その顔に恐怖を浮かべようと決めた。
ぐちゃぐちゃにして泣かせてやろう、と。
 
それは時間がかかると思っていた。
だが、彼はあっさり涙を零した。
それも、大変不本意な理由で。
 
 
 
 
「恭弥っ………恭弥?!」
 
「ん………」
 
「きっ…気がついたか!」
 
目を開ければ、すっかり見慣れた顔。
見渡せば、湿った草ばかりあった。
 
「ここは………」
 
「覚えてるか?恭弥、あそこの崖から落ちたんだ」
 
「あぁ……」
 
そういえば、今日は修行で山に来ていたのだった。
雨上がりで地面がぬかるんでいて、不覚にも滑って崖から落ちたのを思い出す。
 
 
ゆっくり起き上がると、彼は盛大に息を吐いてその場に座り込んだ。
 
「良かったぁ〜……」
 
そしてその瞳から涙が零れる。
 
「……ちょっと、何泣いてるの?」
 
「え?………あ、ホントだ……ホッとしたらなんか……アハハッ」
 
泣きながら笑うという奇妙な技を繰り出し、彼はなおも泣き続けた。
 
「そういえば貴方の部下は?」
 
「救急車呼びに行かせた。ここは電波弱いからな」
 
「ふーん……」
 
必要ないと言うが、念のためだと無理矢理病院まで行かされた。
 
それにしても…何故彼は泣いたのだろう。
僕が原因なのだろうか。
それはそれで目的達成だが、どうにも腑に落ちない。
 
 
一応検査入院として病院に1泊するはめになった。
 
部下だけ帰し、彼は病室に残った。
 
「軽い怪我で済んで良かったな、恭弥っ」
 
「当たり前でしょ」
 
結果は脳に問題はなく、高い場所から落ちた割には奇跡的に軽い打ち身だけで済んだ。
医者が言うには、途中で木の枝に引っ掛かりスピードが落ちて、ぬかるんだ地面がクッションになったという話だった。
ただ、落ちる前に崖の上で頭をぶつけたらしい。
 
 
「貴方、もう帰っていいよ」
 
「え〜…」
 
「何ともないんだから付き添いなんていらないよ」
 
「でも……もう部下達帰らせちまったし…」
 
オロオロするのを見て、やっぱり部下がいないとヘナチョコだと再確認する。
最初にそれを聞いた時はまさかと疑ったが。
 
「…………じゃあさ、ここにいてもいいから、質問に答えなよ」
 
「えっ、ホントか?!」
 
「………答えたらね」
 
彼は謎が多い。
マフィアだからまぁ仕方ないが、それにしても謎だらけだ。
他人に興味などないが、こちらの情報だけ調べられていて自分は何も知らないというのは気分が良くない。
夜は長い、いろいろ聞き出せるだろう。
それに、確認したい事もある。
 
 
それからは、マフィアや彼の幼少時代について聞いた。
意外とすんなり話したので拍子抜けしたが、なかなかに波瀾万丈な人生だったようだ。
 
 
「……で?ヘナチョコから部下がいる時限定で強くなるまでに至ったんだ?」
 
「まぁなー」
 
リボーンが厳しくてよー…なんて言いながら半笑いする。
どうやら見込み通り、あの赤ん坊はかなりやるようだ。
 
 
「………そういえば、何であの時泣いてたの?」
 
「へ?」
 
「崖から落ちた後」
 
「あぁ……なんか安心したら嬉しくてつい…な」
 
「嬉しい?」
 
「崖が結構高かったし、恭弥目ぇ覚まさないしで、スッゲー焦ったんだ。だからさ…」
 
「泣く程の事?」
 
「いや、それは俺も自分でビックリしたけどな」
 
嬉しくて泣くなんて……どういう事だろう。
僕には経験がないからわからない。
そう言うと、「いつか大切な人が出来たらわかるよ」と言われた。
 
その時はあまり深く考えなかったが、それはつまり彼にとって自分は大切な人という事ではないか…?
 
大切……並盛中は大切だ、そう思う。
だが、他人に対してそんな感情は持った事がなかった。
 
 
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