小説(リボーン)短編

□甘えたい年頃
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ちょっと待て
 
落ち着け
 
さっきまで何をしていた?
 
 
ベルは瞬時に先程までの事を思い返した。
 
 
 
「……でさー、ソイツ超ムカついた」
 
「お互い様だろ」
 
そう、ベルはいつものように獄寺のいるアパートの一室に入り浸っていた。
久々に重なった休日。
ソファーでゆっくり過ごす。
 
その時……
 
 
――ボフンッ
 
突然謎の煙が獄寺を包んだ。
 
「え………はっ?」
 
 
煙が晴れたその場所には、幼い男の子がいた。
 
 
 
 
身なりの良い恰好。
深緑の瞳。
極めつけに綺麗な銀髪。
 
「は……やと……?」
 
「おにーさん、誰?」
 
イタリア語を話した声は……高かった。
 
 
 
「いやいやいや…落ち着け俺!王子が焦るとかありえないからっ」
 
そう言いながら焦りまくりのベル。
どうやら彼は、さっきまでここにいた自分の恋人らしい。
…ずいぶん幼くなっているが。
 
そういえば、10年バズーカというのがなかったか。
確かリング戦の雷戦で見た。
だがあれは10年後の自分と入れ代わるものだ。
10年前にそんなものなど………いや、わからない。
試作品くらいはあったかもしれない。
 
確か効果は5分。
目の前には10年前の恋人。
これほどオイシイ状況はない。
 
 
 
「隼人……俺はベルフェゴールってんだ」
 
「ベルフェ…ギュ…?」
 
「あー………ベル」
 
「ベル!ベルはどうしてここにいるの?」
 
「いや………」
 
むしろこちらがそれを聞きたい。
 
すると初めて、獄寺は辺りを見回した。
 
「ここ…お城じゃない」
 
「ここは………うん、ちょっと違うトコ」
 
10年後だと言っても混乱させるだけだ。
 
「おとーさんは?おねーちゃんは?」
 
なるほど、まだ母親が健在の頃か…。
 
「大丈夫、ちょっとしたらすぐ会えっから」
 
「……うんっ」
 
ニコッと笑いかけられ……ベルは不覚にも顔が赤くなった。
ヤバイ、めちゃくちゃ可愛い。
 
 
「は…隼人、今4歳?」
 
「うん!4つ!」
 
あぁそんな眩しい笑顔で4本指を立てられても…。
 
「そっ……そっか。んじゃまーとりあえず…おにーさんと遊ぶか」
 
「えっ?!僕と遊んでくれるの?!」
 
突然乗り出してきた獄寺にベルは驚く。
そんなに変な事を言った覚えはない。
 
獄寺は「やったーっ」とベルに飛びついて言った。
 
「お腹痛くなりながらピアノ弾かなくていいの?!お稽古やらなくていいの?!」
 
「あ…あぁ…」
 
「やったぁ!」
 
普段、遊ぶ事も出来ないのか…。
 
自分が子供の頃はやりたい放題だった。
使用人も好きに使ったし、思い出したくはないが双子の片割れと喧嘩ばかりしていた。
どうやら隼人は違うらしい。
 
 
ベルは優しく小さな頭を撫でた。
 
「隼人、何やりたい?」
 
「えと………」
 
「ん?」
 
いきなり言いにくそうにもじもじし始める。
そんな様子も可愛いが。
 
「いいよ、遠慮しないで………って、ん?」
 
今気付いた。
もうとっくに5分過ぎていないか…?
故障か試作品だからか……まぁバズーカがここにないのだから考えても仕方がない。
 
首を傾げる獄寺に何でもないと言い、「遠慮しないで言いな」と笑った。
 
 
「えとね…………ぅるま…」
 
「え?何?」
 
「か……かたぐるま……して…ほしい……」
 
かたぐるま……あれか、確か沢田綱吉がチビ達にやっていたやつだ。
肩に乗せて足を持っててやるやつ。
 
獄寺が不安そうなのは、きっとやってもらった事がないから。
ベルはまだ不安げな獄寺をギュッと抱きしめた。
 
 
「やってやるよ、かたぐるま」
 
「ホント?!」
 
幸い、ここの天井は高めだ。
わざわざ外に出なくても出来るだろう。
 
 
「……っとその前に」
 
ベルは自分の頭に乗せていた王冠を獄寺の頭に載せた。
確か乗った者は頭を掴んでいた。
王冠は邪魔だろう。
 
「ちょっとだけ、隼人が王子様ね」
 
「……うわぁ…うんっ、ありがとう!」
 
王冠が相当嬉しかったようだ。
 
それからベルはしゃがみ、獄寺を肩に乗せた。
ゆっくり立ち上がると、頭上から楽しそうな笑い声が響く。
 
「ベル、高いねーっ」
 
「だろ?」
 
「見て見て、天井届くー」
 
「ちょっ…ちゃんとつかまってろよ?」
 
「うんっ」
 
 
それからどうしても外へ行きたいと言うので、アパートの前まで下りた。
 
「すごいーっ!ねぇ、ここどこ?」
 
「んー?日本ってトコ」
 
「へぇー!」
 
帰る事を忘れているようだ。
 
 
獄寺はひたすら騒ぎ、上から顔を近づけてきた。
 
「ねぇねぇ」
 
「ん?」
 
「ベル、ありがとぉ!大好き!」
 
チュッと前髪にキスをされ………次の瞬間、頭上で煙が立ち込める。
 
これはまさか……
 
 
 
「うわっ」
 
突然の重み。
ベルは耐え兼ねてしりもちをついた。
 
 
「痛っ」
 
後ろでもしりもちをつく音が。
 
声の主は……戻ってきた14歳の獄寺だった。
 
 
 
 
 
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