短編小説置き場(その他)
□今はまだ
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―――――――――という訳で、今に至る。
フォンの部屋に向かっている訳だけれど、気が重い。
どう考えても承知してくれるとは思えないからだ。
でも、アゲートと同室になる為だ、どんな手でも使ってやろうじゃねぇか!!
「っって、何でアゲートがここにいるんだよ?!!」
いざとなったら脅してでも承知させようと思っていたのに、ドアを開けたらなんとアゲートがいた。
「あ――っ、クロム!!どぉしたの?」
しかも、楽しそうにベッドの上でフォンとカードで遊んでやがる。
「クロム?どうしたの?ドアの前につっ立って。僕に何か用?」
「あ、あぁ…」
一瞬意識がどっかに飛んでいったような気がしたが、今はそれどころじゃない.。
「っていうかだから、何でアゲートがここに?!」
「あれ、知らなかった?この時間って夕食も終わってあと寝るだけじゃん?暇だから毎日ここでトランプして遊んでるんだよ。クロムもやる?」
「ま…毎日…」
俺がベリルのいる重たーい空気の部屋にいる間、この2人はここで楽しくトランプってやつをしてたってのか?!
……これはもう、フォンにベリルの部屋へ行ってもらうしかない。
「アゲート、おまえ、俺と同室になってもいいか?」
「「えっ?!」」
2人の声が重なる。
「だ、だって、クロムはベリルと同室なんじゃ…」
あまり関係ないはずのフォンの方が何故か驚いている。
一方アゲートは思いきり喜んでいた。
「俺、クロムと同じ部屋になれるの?!やったぁ――っ!!あんな広い部屋に1人って退屈なんだよね〜」
よしっ!!アゲートは喜んでくれてる!!あと一息だ。
とりあえず部屋に入り、2人が座っているベッドの前に立つ。
「でもな、アゲート。それには1つ条件があるんだ」
「条件?」
アゲートが不思議そうに見上げてくる。
―――やばい。可愛い。
こんなアゲートを利用するのは少し悪い気がするが、そうも言っていられない。
「そう。実は、フォンとベリルが同室にならないと、俺とアゲートは同室になれないんだ」
「なっっ、何それ―――――――っ???!!!」
予想通りのフォンの反応。
「という訳で、フォン。ベリルの所へ行ってくれないか?」
「そっ、そんなの嫌にきまってるだろ―――っ?!!ベリルと同室なんかになったら…僕どうなるか……」
何を思ったのか、フォンは頭を抱えて青い顔をしている。
「っていうかクロム!!ベリルに言われて来たんでしょ!!」
さすがに気づかれた。
でも、今更そんな事は関係ない。
「なぁアゲート、アゲートも俺と同室になりたいんだよな?」
これでアゲートがフォンに頼めば、フォンは断れない。
今まで見てきて、フォンはアゲートに逆らえないのだ。
というか、アゲートのペースにはまっている感じだ。
「ん〜〜…俺、今まで通りでもいいよ」
「はぁぁ??!!」
今度は俺が驚いた。
「アゲートっ、おまえもさっき俺と同室になりたいって言ってたじゃないかっ!!」
「うん。でも、フォンが嫌がってるみたいだから」
――しまった。考えが甘かった。
アゲートは自分より他人の事を優先するのだ。
フォンが嫌がる限り、部屋を変えようとはしないだろう。
「ねっ、フォン」
そう言われて、フォンはバツの悪そうな顔をする。
「で、でも、アゲートはクロムと一緒がいいんだよね…?」
「俺の事は気にしないで、フォンのしたいようにすればいいんだよ」
「っ……」
意外な展開になってきた。
フォンが迷っている。
アゲートに頼まれた訳でもないのに。
むしろ、好きにしろと言われたのに。
どのくらいたっただろう。
これでも2〜3分か。
やけに長く感じた。
フォンの一言で全てが決まるのだ。
「あ、あのさ…」
ずっと黙って考えていたフォンが口を開いた。
「僕…ベリルと同室になってもいいよ」
「………っ本当か??!!」
反応が遅れた。
まさか、フォンの口からそんな台詞が出るなんて…。
いや、この一言を待っていた訳だけれども。
「フォンはそれでいいの?」
と、アゲートが余計な一言。
「…うん。1日中一緒にいるって訳じゃないし。それに…あの…僕、ベリルのこと…嫌いじゃないし………」
「え"っ」
意外だった。
ずっと、フォンはベリルの事が嫌いなんだと思っていた。
いつもベリルを拒んでいるし。
まさか本当にベリルの言う通り、照れているだけなのか…?
とにかく、今を逃したらフォンの気持ちが変わってしまうかもしれない。
早いとこ話を終わらせなければ。
「じゃ、とっとと部屋替わーぜ。明日までに荷物用意しとけよっ」
「うん。じゃあ、クロムもアゲートも、また明日ね」