短編小説置き場(その他)

□追いかけっこ
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江戸の一角。
屋根から飛び降り建物に身を隠す男が一人。
 
 
「……よし、何とか撒いたな」
 
桂はふぅ、とため息をつく。
今の今まで、真選組の下っぱ共に追われていたのだ。
 
「だがまぁ、あいつに会わなかったのは不幸中の幸いか…」
 
そう、下っぱなら逃げ切るのは難しくない。
だが隊長クラスに来られては、さすがの桂も苦しい。
特にあのしつこい奴が来てはかなり危なくなる。
 
 
「仕方ない、今日はこのまま退散するとしよう」
 
きっと仲間も逃げ切りアジトへ向かっているはずだ。
 
 
 
 
「桂見ーっけ」
 
その声と同時にドカンと大きな音。
間一髪で避けたがまさか――……
 
「しまった、あいつか…!!」
 
振り返れば予想を裏切らない人物がいた。
真選組一番隊隊長・沖田総悟。
肩にはバズーカが背負われている。
こいつだけはヤバイ。
攘夷志士で先陣をきる桂でもそう思う程この男は危険だった。
何しろ所構わずバズーカを撃ってくるのだ。
普通建物の破損だとか民間人の安全だとかを考えてそこまで思い切り撃てない。
 
 
 
「覚悟ぉ!!」
 
続いて容赦ない2発目の発射音が。
爆発の煙に身を隠しながら逃げようとする桂だが、そんな事はすでに彼にはお見通しだったらしい。
通りに出るとそこは真選組でいっぱいだった。
 
「くっ・・・ここまでか・・・」
 
グシャ、と着物の中で、非常食であるんまい棒が粉々に砕ける。
 
「さぁ桂、年貢の納め時だな。おとなしくお縄についてもらおうか」
 
そう言う沖田の手には文字通り縄が。
だが仮にも一党を仕切る男・桂小太郎。ここで諦める訳にはいかない。
自らの足元に向けて爆弾を落とす。
ボンッと音がして辺りに煙が充満した。
 
「自爆か?・・・いや・・・」
 
よく見ると火が見えなく、こちらへの爆風もほとんどない。
となるとこれはただの目くらましの為の煙。
 
 
だが次の瞬間―――
 
「前がっ・・・前が見えねぇ!!」
 
「目が・・・涙がぁ!!」
 
隊員達が突然膝をついて目を押さえだした。
どうやら催涙ガスだったらしい。
いつの間にか桂の姿も消えている。
その場は地味に騒がしくなった。 
 
 
 
 
 
「どうやら効いたようだな」
 
そして何故かまた屋根の上を走る桂。
目立つという事がわからないのだろうか。
 
「ここまで来ればもう追っ手は・・・・・・っ?!何?!」
 
止まって後ろを振り返れば、後ろから真選組の隊服を着た1つの影が。
 
「馬鹿な!!あれだけの催涙ガスをくらって追ってこれる訳が・・・!!」
 
自身は用意していたゴーグルをつけていたが、普段そんなものを常備している者などそうはいない。
 
 
「へっ、甘いぜ桂。こちとらこいつがあるんでさぁ」
 
そう言って沖田がポケットから取り出したのは、アイマスク。
彼のトレードマークと言ってもいい程重要な物だ。
だが桂はそんな事は知らない。
 
「貴様、何故そんな物を持ち歩いている!!職務怠慢で訴えるぞ!!」
 
屋根の上を走りながら桂が叫ぶ。
というかアイマスクで煙は防ぎきれないだろう。
 
「その仕事を邪魔しようってのはどこの攘夷野郎でぃ。いいからさっさと俺に縛らせろ!!」
 
沖田の手には先ほどの縄が。
手首を縛るには長すぎる、むしろ体全体を縛る為のもんだろと言いたくなるような長さだった。
 
「噂には聞いていたが、貴様Sだな?!そうだろ!!だが言っておくが俺はMではない!!他の奴を当たってくれ!!」
 
「てやんでぃそうもいかねぇんでさぁ。せっかく見つけた大物だ、逃す訳にはいかねぇ!!」
 
そしてさらにスピードを上げる沖田。
桂が追いつかれそうになったその時―――
 
 
“こっちです!!”と書かれたプレートが建物の陰から見えた。
そこには白い物体が・・・。
 
 
「あいつぁ・・・」
 
 
「エリザベス!!」
 
 
桂はエリザベス目がけて屋根から飛び降りた。
 
「ちぃっ」
 
沖田もそれに続こうとする。
だがその前に足元にバズーカをぶっぱなされた。
何とか避けて煙が晴れるのを待ち桂が飛び降りた場所を見るが、すでに誰の姿もなかった。
 
 
「チキショウ、あんのペンギン・・・!!」
 
結局、この長い縄は使う事が出来なかった。
 
 
「まぁいいぜぇ。桂小太郎・・・次は絶対ぇ縛る!!」
 
黒い笑みを浮かべて高々とそう宣言した沖田だった。
 
 
 
 
 
それから真選組の評判はますます下がったらしい。
 
 
 
→後書き
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