短編小説置き場(その他)

□1番会いたい人
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チョッパーの行動は早かった。
すぐにルフィの部屋へ向かい、物がごちゃごちゃと積んである山から子電伝虫を探して戻って来た。
これは、ユースタス海賊団の船長、キッドが置いていったものだ。
ルフィが「いらない」と言ったが、キッドは押し付けて帰って行った。
しばらくの間はしつこく電伝虫が鳴っていたが、突然ぱたっと鳴らなくなった。
そしてルフィが部屋に放置したのだ。
 
きっとあの山のような物に埋もれているだろうとチョッパーは予測。
見事に当たった。
 
 
「全く、あれじゃ鳴ってもわからないじゃないか」
 
あのキッドの事だ、おそらく何回も連絡しようとしていただろう。
 
 
チョッパーはすぐに子電伝虫を使った。
もちろん、連絡先はユースタス海賊団。
というかそこにしか通じない。
 
すぐに向こうが応じた。
 
 
『ルフィか!?』
 
「……違う」
 
出たのはもちろんキッド。
そして明らかにため息をつく。
 
『……誰だ』
 
「麦わら海賊団の船医だ」
 
『あ?船医が俺に何の用だ』
 
チョッパーはまだ苦しそうに胸を上下させているルフィをちらっと見て、また子電伝虫に向き直る。
 
2人の関係はよくわからない。
普段見ている限りでは、ただキッドが強引に押しかけるだけで、ルフィは何とも思っていないようにも見えた。
だが…………
 
 
「ルフィが……風邪をひいたんだ」
 
『アイツが風邪…』
 
「熱が高いし咳も出てきた。かなり苦しそうなんだ」
 
『なっ……ルフィは大丈夫なのか!?早く治せ!テメェは船医だろうが!』
 
「だからこうしてるんだ」
 
『………?』
 
 
 
チョッパーは思い出す。
 
ドクターと過ごしていた時、自分は風邪をひいた。
頭は痛いし息は苦しいしでかなり辛かった。
薬も飲んだが、やはりすぐには治らない。
 
それでも耐えられたのは、ドクターがずっと傍にいてくれたから。
 
「頑張れチョッパー、この俺がついてる」
 
そう言って、寝ずに看病してくれたから。
 
どんな薬よりそれが1番嬉しく、1番効いた。
 
 
ルフィが無意識にキッドの名を呼んだのはきっと、会いたいから。
この苦しい時に、1番傍にいてほしいから。
 
 
 
「ルフィがうなされながら言ったんだ。…キッド……って」
 
『……………………』
 
言葉に詰まっているらしいキッド。
チョッパーはなおも続けた。
 
「ルフィはきっと、あんたに会いたいんだ。傍にいてほしいんだ。だからせめて、声だけでもかけてやってくれないか?」
 
 
 
『っ…………』
 
キッドは拳を握りしめる。
 
自分は今、何故彼の傍にいない。
すぐに行ってやれない。
 
………悔しい。
 
愛する者が辛い時に傍にいてやれない事が、ただただ悔しかった。
 
 
 
 
『っルフィ!?』
 
受話器の向こうから慌てた船医の声が聞こえた。
微かに苦しそうな息遣いも聞こえる。
おそらくは、ルフィの。
 
「おい船医!」
 
『えっ!?』
 
「子電伝虫をルフィの近くに置け!」
 
『わ…わかった!で、でも…今ルフィが起きたんだけど、さっきより苦しそうで……っ』
 
「テメェは船医だろ!しっかりしろ!」
 
『っ!!』
 
チョッパーはその言葉で目が覚めた。
 
そうだ、自分は船医だ。
クルーの怪我や病気を治すのが役目。
まずはタオルを換え、薬を作らなければ。
 
だがその前に、子電伝虫を枕元に置く。
 
 
「ルフィ…俺がわかる?」
 
「………チョッ…パー……?」
 
「うん、そうだよ!今、子電伝虫が繋がってるからっ」
 
「え…繋がってるって……?」
 
「聞けばわかるから」
 
そう言い、チョッパーは薬を作るため少し離れる。
 
 
 
ルフィはうつろな目で子電伝虫を見る。
 
頭が回らない。
これが何かもよくわからない。
 
だが次の瞬間、一気に頭が働いた。
 
 
 
 
『ルフィ!わかるか!?』
 
 
 
 
「………………キッド………」
 
 
そうだ、これは子電伝虫。
キッドが無理矢理置いていったもの。
しばらくはうるさいくらいに鳴っていたのに、突然全く鳴らなくなった。
子電伝虫を見るたびに鳴る事を期待している自分がなんだか無性に嫌になって。
積んである物の中に埋もれさせたのだ。
 
 
 
『ルフィ……大丈夫か?』
 
「…………バカ野郎……」
 
『……は?』
 
「今更………ッ…ゴホッ」
 
『ルフィッ』
 
キッドは、明らかに苦しそうなルフィに焦る。
 
だが、何故いきなりバカ野郎なのか。
いつも素っ気ないが、そんな事を言う事はない。
自分は何かしたのだろうか…。
 
少し前に、やっと長い期間追い続けられていた海軍の手から逃れて久しぶりに子電伝虫を使ったら、応答がなかった。
それからはいくら鳴らしても出る事はない。
そして向こうから鳴らしてきたと思ったら本人ではない。
 
 
 
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