短編小説置き場(その他)

□1番会いたい人
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「ル…ルフィ……?」
 
恐る恐る呼びかけると、途切れ途切れに返ってきた。
 
『……ずっと…連絡してこなかったくせ…に……今更………』
 
「ずっと鳴らしてた。だが、途中少し海軍に追われて……何日間か連絡出来なかったのは謝る」
 
『……………海軍………』
 
「あぁ。ずっとおまえの声が聞きたかった。なのにやっと聞けたと思ったらおまえは………っ」
 
『…………悪ぃ…』
 
「謝んのは俺の方だろ?好きな奴が苦しんでるってのに、手も握ってやれねぇ」
 
『……おまえにまで…うつっちまうだろ…』
 
「ルフィが治れば俺はそれでいい」
 
今すぐにそこへ行けたらいいのに。
そうしたら自分にうつせばいい。
 
 
 
「ッ………」
 
ルフィは乱れた呼吸を頑張って整える。
だが、荒い息は治まらない。
 
それでも、先程より辛くはない。
頭はまだぼーっとするし喉は痛いし呼吸はしにくいが、比べればすごく楽になった。
 
 
『ルフィ?辛いか?』
 
「………っ……いや……大丈夫だ…」
 
『どう考えても苦しそうだろうがっ』
 
「それでも………だいぶ楽になった………」
 
笑う余裕さえある。
 
それはきっと……
 
 
「キッド……もっと…何か話して……」
 
『ルフィ……』
 
低音でぶっきらぼうな彼の声。
それがすごく心地いい。
不思議だ、いつも聞いていたのに………。
 
 
 
『キッド……』
 
呼ばれたキッドは、受話器を握りしめていた。
 
彼が自分の名前を呼ぶ事は滅多にない。
なのに今は「キッド」と呼んでくれる。
自分を頼ってくれている。
 
行きたい……愛しい彼の元へ。
 
 
 
そこへ、船医の声がした。
薬が出来たようだ。
 
『ルフィ、飲めるか?』
 
『あぁ……サンキュ、チョッパー…』
 
『ちょっとしたら眠くなるよ。……じゃあ俺、替えのタオル持ってくる』
 
おそらくは気を利かせたのだろう。
声は子供っぽいくせに、妙なところで気が利く船医だ。
 
 
 
「ルフィ、寝とけ。それが1番だ」
 
『…ん〜…………』
 
どうやらもう眠たいらしい。
呼吸は荒いものの、咳は治まっている。
おそらく、一晩寝ればだいぶ良くなるだろう。
 
 
「今度は鳴らしたらちゃんと出ろよ」
 
 
『…ん〜…………キッド……』
 
 
「何だ?」
 
 
 
 
『…………会いたい………』
 
 
 
「っ……………………」
 
 
何か言おうとしたが、規則的な寝息が聞こえてきたので、キッドは受話器を戻した。
 
 
“会いたい”
 
初めて聞いた。
 
1番会いたいと思っている時に会いに行ってやれない。
自分はなんて無力なのだろう。
 
まさしく“バカ野郎”だ。
 
 
ギリッと歯を食いしばり、キッドは繋がらなくなった子電伝虫の前でいつまでも立ち尽くすのだった。
 
 
 
 
 
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