宿星三國史

□拍手小話
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『雨垂れ』




江東地区・蓮呉。
其処はある時期になると、長い間降り敷く雨で人々が殆ど建物に籠ってしまう。何せ江東地区は水郷都市が点在する場所。故に、この期間降り続く雨でどうなってしまうか経験上皆知っているからだ。

今年もこの雨での水害対策に、蓮呉城内は慌ただしくなる、か…。

ふぅっ…と、周瑜が執務をこなしながら溜め息を吐く。天が起こす現象だから仕方のない事なのだが、毎年水害対策を練るとなる為、うんざりして休みたいという気持ちになる。そして、この雨と同時に呆れてしまう恒例が必ずある事も、周瑜にとっては悩みの種であった。

「凌統君。この湿気なら……そのメイク、落ちるよね?」

「落ちねぇし。つかいい加減諦めろよ、陸遜!」

あぁ、やはり始まった。毎年この時期恒例の二人のやり取り。

今日も凌統の顔の呪印で始まるこの話は、他の人々を巻き込む厄介事でもある。
ふと、陸遜達の話し声が聞こえた方から恐ろしい威圧が漂ってきた。周瑜はその威圧に息を呑み、ゆっくり振り返る。ニヤリと笑っている呉国太と目があった。
周瑜は再び息を呑み、ふいっと自分のデスクに視線を戻す。今の時期の彼女は、いつにも増してピリピリしている。余計な事をすれば、先ず半殺しは間違いない。
周瑜が恐怖で少し身体を震わせ執務を再開していると、スゥっと後方の威圧感は消え穏やかな空気が流れていた。

「ふぅ…」

周瑜は安堵して一息吐き、走らせていたペンを置いて窓の外の空を見た。
未だに止まぬ雨音と屋根から滴る雨垂れ。まだまだ多忙な時期と恒例の出来事は止むことはないだろうと、天が憐れむかの様に告げていた。
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