宿星三國史

□拍手小話
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『熱帯夜』




「……」

暑い。
関羽はパチリと目を開き起き上がると、額に浮かぶ汗を腕で拭い窓の外を見た。
ここは成都地区綾蜀城。山岳地帯で夏の夜は涼しく過ごせるこの地区は、現在避暑地を求める多くの旅行客で賑わい、あちこち祭で騒いでいる。しかし、今日は珍しく暑さが夜になっても籠り、この暑さと寝苦しさで遂に目が醒めてしまったのだ。
未だ暑さで浮かぶ汗に不快感を感じながらも外を眺めていると、ふと中庭の噴水に佇む人影が目に入った。
月明かりが照らす噴水の水にその人物は足を浸からせ、月を眺めている。

かの人もこの暑さに目醒めてしまったのか。

関羽はまた汗を拭いゆっくり寝台から降りると、その人物が居る中庭の噴水へと歩き出した。
中庭に入り、まず遠くからその人物を確認した関羽はハッとして目を見開いた。噴水で涼んでいたあの人物は、成都地区の殿下で義兄である劉備だったのだ。

「……ん?」

関羽の気配に気付いたのか、劉備が彼の方に心地良さそうな顔を向け、こちらに来いと顎で指示を出す。関羽はふわりと柔らかく微笑すると、劉備の隣に座り噴水の水に足を浸からせた。
ひんやりと冷たい優しい水の感覚に関羽は心地良さそうに目を細め、ホッと一息吐いて月を眺めた。
満ちた時とは違う十六夜の月は神秘的で、この地に漂う暑ささえも感じなくなるくらいに冷えた淡い光を放出している。周りの星の明かりもその月光に取り込まれたかのように姿を消したのかと見えてしまう。

「雲長、テメェも暑さで目ェ醒めたのか?」

劉備の優しい問い掛けに関羽はハッと我に返ると、コクリと頷き、

「兄者もこの暑さに目が醒めたのですか?」

と、下りて額に張り付く前髪をかき上げて問い掛ける。これに劉備は微笑すると頷きながら答えた。

「あぁ、暑苦しくて眠れやしねぇな。だがな…」

劉備は話しながらニヤリと口端を吊り上げると、自分より逞しい関羽の肩に腕を回し、空いた手で優しく頬を撫で耳に唇を近付け囁いた。

「俺は愛しい雲長と二人きりになれて、こんな夜も悪くねぇと思った」

「……!?」

この言葉に関羽は目を見開き耳まで顔を真っ赤にすると、慌てて劉備から目を逸し黙り込む。関羽のその反応に劉備はクスクス笑うと、スッと立ち上がり彼の顎に手を添え上を向かせる。

「マジで愛してるぜ、雲長」

劉備はそう熱っぽく呟くと、驚いて目を見開いている関羽の唇に自分の唇を重ねた。
時折角度変えて舌で歯列をなぞり逃げる彼の舌を自らの舌と絡ませ、ゆっくり口内を犯していく。そして彼が脱力したところを見計らうと、背中に腕を回して支え水音を立てながら唇を離した。
すっかり蕩けきった瞳で見つめる関羽を見て劉備は微笑むと、ギュッと抱き締め彼の肩に顔を埋めた。

確かに兄者の言う通り、こんな夜も悪くない。

関羽はぼんやりとする頭の端で思うと、劉備の背に腕を回して幸せそうに瞳を閉じた。










[あとがき]
甘々な劉羽(つか、見えなくても劉羽主張)
後々本編の内容に深く関わってくるものです。
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