宿星三國史
□war.2 -発生-
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翌日。
城内の広く豪華なロビー。翔はふらつく足取りで、柱に寄り掛かっている男に近付き挨拶をする。
「おはようございます、孫堅さん」
「よぉ、今朝は早ェな」
「それがですね…」
言おうと口を開くも、翔は目眩を起こして倒れそうになる。孫堅は翔を支え近くのソファに座らせ、自分も隣に座った。
「一体何があった。昨日の俺の蹴りがあまりにも効いたか?」
孫堅が少し心配そうに話し掛ける。
「(この人見掛けはワルの癖に、案外律義に覚えてるよ)」
翔は昨日の事ではなく、つい先程起った出来事を洗い浚い話し始めた。
「オラ起きろ、黄龍総帥」
「なんだよまだ7時前じゃんか〜」
「つべこべ言ってんじゃねぇ!寝ぼけてんのかゴラ!!」
早朝。あれから城に帰り客室で就寝していた翔は、いつの間にやって来た孫策に寝台を豪快にひっくり返され、叩き起こされた。案の定翔は派手に頭をぶつけて床に落ち、完全に目を醒ます。
「ッ痛ってぇな!何すんだよ!!」
頭のぶつけた箇所を両手で抑えながら、翔は声を荒げて孫策に文句をぶつけた。
「ァあ?んなもん決まってんだろ。テメーを特訓させに来たんだよ」
「は?何で俺が?」
翔は半目になり、不機嫌そうに言う。これに孫策は軽く溜め息を吐くと、ビシッと翔を指差して言い放った。
「『何で』だァ?テメー黄龍総帥だろーが!体力位ねぇと話になんねぇだろ!!」
「(あ…確かに)」
翔は納得して無言で頷き、急いで着替え彼の後に付いて行った。
だがこの時ちゃんと断れば良かった。そう後悔したのは城から出て数分後。
「なぁ…特訓って、具体的に何をするんだ?」
翔が質問してみる。すると孫策は突然足を止めた。
「此処を十周走れ」
「…へ?」
その言葉に翔はキョトンとする。
「十周?城ならともかく庭も含めてか?」
「ったりめーだ。じゃなきゃ意味ねぇだろ」
マジすか。
「あの…此処一周何km位あるんスかね?」
「さぁな」
「は?」
欠伸をしながら首を鳴らす孫策にサラリと答えられ、翔は目を点にした。そして彼は更に一言ぼそりと呟く。
「俺も今まで走ったことねぇし」
「(ねぇのかよ!!)」
翔は目を見開き心の中でツッコミを入れた。
「まぁ大体2〜3キロあるんじゃねぇの?」
「(て事はつまり2〜30km?!
コイツ俺を殺す気か!!)」
「じゃ、俺は都市[まち]に出掛けてくっから、テメーは真面目に走ってろよ」
「ちょっ待っ……!」
口笛を吹き去って行く孫策を、翔はただ見送る事しか出来なかった。それから何だかんだ言いつつも走行を開始するが、初っ端から十周するなど不可能である。結局、何とか一周完走するもそこで力尽き、現在に至る。
「……という訳だったんスよ」
「それでさっきふらついてたのか…。俺の息子が迷惑をかけちまったな」
「全くスよ」
翔は笑って謝る孫堅に苦笑し、ソファからゆっくりと立ち上がった。
「じゃ俺、そろそろ部屋に戻ります」
「ちょっと待て」
孫堅は立ち去ろうとする翔に声を掛け、少し考えて懐から綺麗に畳まれた一枚の紙を取り出すと、彼に微笑して渡す。
「お前は策よりとても利口だから、其処へ行ってもきっと歓迎されるだろ。奴はいい性格の持ち主だからな」
孫堅が翔に紙の記した場所を教えていると、彼の元に一人の部下が駆け寄ってきた。
「帝城から、孫文台様に重要な話がある、と使いの者が参りました」
報告を聞いた彼は何事かと疑問を浮かべ、
「奥へ案内しろ」
と命令し部下を走らせソファから立ち上がると、翔へ向き直る。
その紙に書いてある所へ行け。
そう目で告げると、孫堅は幅広い階段を降りていった。
一応行ってみよう。翔は紙に記された場所へ向かった。