宿星三國史
□war.6 -反逆・後-
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長く続く回廊
黒い機体が静かに進む
深い因縁と大きな悲しみ
断ち切る刻が、来た
呂布は襲い掛かる異形を方天画戟で一閃し、血を振り払ってそれを担ぎ直すと、左手に握り締めた牡丹の簪を見つめた。
彼女が切に願う、己の心の解放と自由。それを叶える為、暴君を伐ちに行く。
「貂蝉、もう悲しむことはない」
呂布は穏やかな声音で小さく呟き、再び歩き出した。
迎える明日を、明るいものへと変える為に――
「……そんな事が…」
この事実に、翔と周瑜は真摯に聞いて悲しい面持ちになる。しかしまたもや隣で聞いていたのかいなかったのか、孫策は頭の後ろで手を組みつまらなさそうに欠伸をした。
「(あんの野郎…)」
「(伯符、貴方って人は……)」
翔と周瑜は半ば呆れる中張遼が苦笑すると、少し息を吐いて翔を見た。
「翔様。これからどう致しますか?奉先殿が暴君との因縁を断つ今、私達にはやれる事がある筈ですよ」
「あぁ」
やれる事、つまり孫堅を助ける事だ。今すぐにでも行かねばならない、呂布に暴君を任せている間は何としてでも。先ずは半異形と化した猛将・華雄を見つけ出し、孫堅が居る場所を強引に吐き出さなければ。
翔は頷くと、近くに落ちていた剣を拾い上げ辺りを見回した。気味悪い異形の嗤い声が聞こえてくるのは、回廊へと続く大きな扉。きっと其処に行き異形を倒して行けば、華雄に出会える筈だ。
「まずは華雄を探し出そう!孫堅さんを助けるんだ!」
「えぇ」
「おうよ!」
翔の言葉に三人は頷くと、回廊へ続く扉へと走り出した。
静まり返った大広間。吹き抜けの三階で、白い服の青年がきゃらきゃらと鈴が転がる様に笑いながら、下の階を眺めていた。
「白虎七宿の胃宿と畢宿を仲間にしたなんて。流石、次期俺様の主だね」
手には白い羽扇。青年は口元に弧を描き、呟く。
「……にしてもさぁ。
俺様の仕掛けた罠[トラップ]に掛かるなんて、アンタも馬鹿だねぇ」
背後では、異形が全身串刺しになって大量血を滴らせ、既に息絶えていた。
「さてと、そろそろあの人達が乱入する頃合だし、いっちょそちらの見学に参ろうか」
大きな回廊が交錯する中央ロビー。此処に辿り着いた翔一行は、辺りを見渡し立ち止まった。
「張遼さん。何か感じ取れますか?」
「えぇ。あちらから華雄の異様な空気が流れ込んできています」
「よっしゃ、そいつぁ俺が相手して仕留めてやる!」
「待てよ孫策。ソイツには聞かなきゃならねぇ事があるんだ」
張遼の言葉に反応して楽しげに指を鳴らす孫策に翔は制止の言葉を掛けると、張遼が指差した大回廊の入口を見つめた。
「さ、早く華雄に会って問いただそうぜ。孫堅さんの命に関わるからさ」
翔が歩き出そうとしたその時。
「ッ!!いけません翔様!それ以上前へ行かれては!!」