宿星三國史

□war.8 -騒祝-
1ページ/13ページ






俺、只今拉致られてます。
パーティー会場という名の戦場へ、拉致られています。
俺の愉快な仲間達、二十八宿星の面々に。
一人は確実俺に酒飲ませるつもりで、頼りになりそうな一人は“スイーツ”の四文字で足を運ばせている。
死神とド派手な奴は俺を置いて楽しみそうだし、司馬懿さんは抜け出すなんて絶対許してくれそうにない。
頼れるのは張遼さんだけだけど、大丈夫だろうか?
しかも諸葛亮さんの情報によると、会場には孫策とあの暴走族の奴等も来るらしい。
って!アイツ等、パーティー会場に最も招いちゃマズイだろ?!!!

最早選択肢のカードは三つ。
おとなしくする
帝命令で中止にさせる
仮病で逃げる

どうするよ、俺!どうなるよ!!

―――結局、これらの選択肢は皆の怒りを買いかねない為、翔は仕方無く【おとなしくする】を選んだのであった。





帝城内。至る所に施された絢爛な装飾が目を引き、広大な敷地を誇る特設パーティー会場。その中でも一際存在を主張する王座に、翔は普段着(政府の人に時間が無いと言われた為着替えていない)のまま座らされていた。
今宵は帝就任祝の宴、各地区のお偉い方々や政府の招待客が集まる、正しくセレブな催しだ。

「曹操さんと袁紹さんは来そうだよな………あと来るとしたら誰ッスかね?」

「孫堅殿の次男である江東地区の孫権殿下と、馬超殿の父親で西涼地区の馬騰殿下。そして、成都地区の劉障殿下といったところでしょうか」

「…へぇ〜」

張遼の返答に勿論翔は解る筈も無いが、表では理解したかの様に頷き会場全体を眺めた。何とも高級そうな料理やデザートが、テーブル上に所狭しと並んでいる。更に来場者達の服装。二十八宿星達を除いて皆豪奢な衣装を纏い、普段着の自分が確実に浮いている。

「(何か俺、場違いのように見えるけど……居て大丈夫なのか?)」

「総帥、何を間抜けた事を思うておる。貴様はどの奴等よりも地位が高い正真正銘の帝だ。たかが服ごときに惑わされるでないわ」

「し、司馬懿さん」

心ん中読めるのかよ司馬懿さん?!これって二十八宿星の心宿の能力か?!
翔が唖然として司馬懿を見つめていると、一人の豪勢な衣装で身を包む若者が視界に入り込んだ。

「初めまして、皇帝陛下。私、江東地区殿下の孫仲謀と申します。以後お見知りおきを」

「あ、俺、興隆寺翔です。好きなように呼んで下さい」

翔は孫権に一礼した。

「(この人が孫権さんか。良かった…流石殿下なだけあってちゃんと常識あるよ。ったく…どこぞの馬鹿親子とは大違いだな)
……あれ?」

そういえば、居る筈の二人がいない。

「孫権さん、アンタの家族が見えないんスけど…」

「父上なら曹操殿達と飲んでますし、兄上は周瑜殿達と騒いでいます。
ほら、あそこ」

孫権が微笑ましくある方向を指差す。その先は案の定だった。

「(だろうと思ったよ!もう!全然駄目じゃん!!)」

解りきっていた事だが翔はツッコまずにはいられず、近くにいた司馬懿も同感したのか、またもや心を読んではうんうんと頷いた。

「ところで翔さん。後方に控えているお二方は、貴方の配下でしょうか?」

「はい。此方の紳士は張遼さん。俺に色々と教えてくれる、とても親切な人です。もう一人は司馬懿さん。今日諸葛亮さんと一緒に士官してきた、天下の鬼才の一人なんだ」

「……!と言うことは…一年前、政府の人々を一言で黙らせたあの!お会い出来て光栄です!」

「(え゛!?司馬懿さん、まさか俺がここに来る前から、諸葛亮さんと一緒に何かと色々やってたんスか?!)」

翔が目を丸くして司馬懿を見ると、当人は軽く鼻を鳴らし冷やかな眼で見返してきた。それは、まるで北海道の真冬日の様な寒さを醸し出している。

「(すみません!悪かったです謝りますから機嫌直して下さいィ!!)」

「翔さん、如何なされました?体調でも崩されたのですか?」

「い、いや!体調はバッチリですよ!」

「作用ですか。では翔様、私はこれにて」

「あぁ、いってらっしゃい張遼さん」

一礼する張遼に翔は手を振って見送り、再び孫権と話すべく向き直るが…

「おいコラ!何で俺等は装備持ち込み禁止なんだよ!」

突然の怒鳴り声。翔は一瞬肩を震わせ、

「(……この声は)」

恐る恐る、出入口に顔を向けた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ