自作小説

□天国に逝くため……第二章
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 第二章、依存者



真昼の青空の下、天野真朱は眉間に皺を寄せていた。
その理由は二つ。
一つは時子の機嫌が悪く、先程涙目で走り去っていったから。
そしてもう一つは……真朱の膝の上に座り、真朱に擦り寄る少女が真朱にとある事をねだるからだった。

「真朱くん。早く……してください」
「あー…だからだな、そのー……」
真朱の歯切れは悪く、少女は瞳を閉じながら、もう一度言う。

「真朱くん……いつもみたいに……して、ください……」
ほんのりと朱色に染まる少女の頬、真朱はそれにばつが悪そうに視線を泳がす事しか出来ない。

「なんで……してくれないの? わたしはもう……いらない子なの? わたしは……真朱くんを気持ち良くしてあげたいだけなのに……!」
「…………あのさ、明衣。いい加減まわりに誤解を招くような言い方は止めてくれるか? そして今は時子を探しに行かないとダメだろ」
真朱のその言葉に、少女、黒神明衣は明らかに拗ねたように唇を尖らす。

「うー……時子はどうせすぐ帰ってくるし、まわりに誤解を招くような言い方って、そのままの意味なんだから、誤解なんてないよ。だって、わたしは真朱くんのなんだもん。真朱くんを気持ち良くしてあげるのは当然なんだよ? だから……いつもみたいに……して……?」
そう明衣は真朱に擦り寄る。
真朱はそれを邪険にする事が出来ず、誘惑に負けそうになる。
それだけ明衣の身体は暖かくて軟らかいのだ。
小柄な身体は腕の中に納まるし、二の腕はふにふにしている、頬はぷにぷに……真朱にとって、最高の《抱き枕》なのだから、誘惑に負けそうになるのだった。

だが抱き枕抜きにしても、明衣は可愛らしい。
小柄な身体に纏う、赤茶色の和服は、艶のある黒いふんわりとした、やわらかい腰辺りまでの髪を更に綺麗に見せ、茶色を帯びた黒い瞳が、絹のような白い肌と絶妙な組み合わせとなり、和服美人な明衣を、一層際立たせていた。

「あー…えっと、だな……」
そんな明衣が好きにしていいと誘っているのだから、真朱はその誘惑に耐え切れなくなりそうで、心の中で時子に謝罪した……。
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