自作小説

□天国に逝くため……第一章……
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 プロローグ


 死んだ……。
 飛び降り自殺……、目の前の世界が真っ赤な色に染められて、身体が火に炙られたように熱くて、痛い……。
 視力はだんだんと無くなってきて、周りの世界が自分ただ一人を漆黒の闇の中に置き去りにしていった。
 何も見えない暗闇、その筈なのに、目の前には何か、〈存在してはいけないもの〉が確かに、確実に存在して、闇の中でその姿をぼんやりと浮かび上がらせ、その姿を完全に見せる前に、静かで落ち着いた声で語り掛けてきた。

『自らの命を刈り取った罪人よ。おぬしは死なぬ、死ぬ事は決して許されぬ。おぬしは自らの命を捨てる大罪を犯した。その罪を償うためにおぬしは我の力を奮い、悲しき存在〈悪魔〉を消して行くのだ』
 その存在はそう語り終えると言葉を切り、歩み寄ってくる。
 その存在が近づくにつれてだんだんとその異様なまでもの容姿に気がつく、始めは何とも思わなかったその〈犬〉は巨体で、暗緑色の毛に覆われていた。

『……おぬしは〈自殺者〉としての定めを果たさねばならぬ。我からはここまでしか語る事しか出来ぬが、我の話はいずれ理解できるであろう。我の名は《幻魔》、さて……おぬしの名は、何と言うのだ?』
 始まりは唐突で、始まりと同時に日常が崩れ去る。
 だけれどもそれは決して悲しくはなく、何故だか当然で、当たり前のような気がしてならない。
 自殺……それは自身の命を自ら絶つと言う、生を冒涜する行為、彼はそれを犯した。
 その罪は当然許される事ではなく、その罪と……もう一つ、裏切りの罪を背負いながら、再び《天野真朱》(あまのまほそ)はこの世に〈自殺者〉として……生を受けた。

 風が吹く、悲しくて、どこか切ない風が吹き抜ける。
 彼が起き上がった事は誰も知らず、彼の亡骸は静かに、存在し続けていた……。
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