修一

□彼と車とその隣
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秋も深まりつつある、そんな日曜日。


私と修ちゃんは、修ちゃんの運転する車でデートに出かけたっ!











《彼と車とその隣》













「水族館なんてひさしぶりだぁ〜♪」


「そういや…俺も小等部の遠足以来か…??」


「私小さいときって、水族館だめだったんだ…☆」


「そうなんだ…??」


「うん。
水中も暗闇も魚も大丈夫なんだけど、それが3つ揃うとどうもダメみたい。
あの真っ暗の中を、チャプって水音と一緒に、魚のギョロとした目が通るのが何とも…。」


「あぁ。確かにそれは少し怖いかもな。」


「エイを下から見たときは、すっごい衝撃的だったっ!
なんかゲームのモンスターみたいでっ!」


「はは、あれは見えなくもないよな〜。」


「でもイルカは好きなんだよね♪あとシャチもっ!」




修ちゃんと出かけることは勿論だけど、
こうしてゆっくり話す時間も最近はほとんど取れずじまいだったから、
私と修ちゃんは車の中で一緒にいられなかった分までよく喋ってた。











「私子供の頃スイミング通ってた時があったんだけど、テストの時って1番端のコースを泳ぐじゃない??
先生がプールサイド歩いて審査できるように。」


「ん…。」


「その時水中の壁にあるボイラーが海に繋がってると思い込んでたの。
壁の向こうでサメが平行して泳いで私を食べるタイミング伺ってて、気を抜いたら食べられるって真剣に思ってたっ!」


「あはは!それは独創的だな〜。」


「うん、もぉ命がけ!」



日曜日だけあって渋滞でなかなか進まないその時間も、
修ちゃんと喋っていられるだけで楽しくて、このまま目的地につけなくてもいいやなんて思えてしまう…。







しばらく話し続けてた私は、不意に自分ばっかり話してることに気がついて、そのまま修ちゃんの方を見た…。




そして思わず言葉を呑む。




修ちゃんはハンドルに、もたれるように覆いかぶさって、組んだ腕の置いた顔で私の方を見ていた。



優しくて、あったかい表情で。







「ん…、聞いてるよ??」

止まった私の話の先を優しく促すように言う修ちゃんの声に、私は顔が熱くなるのを感じた。





「や…。……なーんか、私ばっかり話してたな〜って…////」


思わず視線を自分の手元に落として言葉を濁すと、

俺が聞いてたかったんだから、気にするな。って大好きな修ちゃんの手が私の頭に乗った。

















行楽シーズンなこともあって、予想していたよりも水族館は混んでなかった。



大きな水槽のガラスの前にふたり並んで、水の中をゆったりと泳ぐイルカ達を見つめる。



イルカショーとは違う、まったりしたその空間。


壁に埋め込まれたこの水槽の上は、地上と繋がっているからか
青い光で包まれていて、その部屋も幻想的に映る。




修ちゃんは、その長身に似合ったズボンに両手を入れて、静かに水槽を見上げていた。


下から見ると、いつものお兄ちゃんっていうよりも、やっぱり男の人で…
正直水槽よりも修ちゃんを見ていたいような、そんな気分になる。




しばらくして、下からの視線に気がついたのか、視線だけ私の方を向けて、「…ん?」と微笑んだ。



うわ……。
かっこいい…///





「……んーん…☆
ここでデートするのって、ちょっと憧れてたりしたから…。
修ちゃんと来れてよかったな〜…って☆」



ちょっと恥ずかしくて、そのままに目線を戻した私。


そしたら、隣でくすって笑う雰囲気が伝わって、
私の手をゆっくりと修ちゃんの手が包んだ。





ビックリして隣を見たら、修ちゃんは笑ってて。


それがなんだか悔しくて、繋いでた手に少し力を込めてみる。


そしたら修ちゃんもギュッと力を入れてきた。



その手の暖かさに、どこかほっとする。





チラッと隣を覗き見たら、修ちゃんも視線を私に戻してきた。



それがなんだかくすぐったくて、
二人で思わず笑った後に、そのまま水槽に視界を戻した。






繋がれた手は、そのままで…。











【fin.】

08'11.16   KAHIME.


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