修一
□赤ちゃんが来る日が来たら
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「あぅ…。お腹……イタイ…。」
お腹を押さえたままソファーでうずくまり始めた私を見て…、
いつもの修ちゃんの落ち着きはなく、
顔を赤くして、何かあたふたしていた…。
《赤ちゃんが来る日がきたら》
心地いい秋風がそよぐ、日曜日の午後。
今日は兄弟それぞれが用事で出かけている。
部屋で読書をしていた私は、読みかけのページに栞を挟んで
紅茶を貰おうと1階の談話室へと下りた。
普段は兄弟が集う空間も今日はしんみりしたものだろうと部屋の扉を開ける。
しかしそこには、ビジネス誌を手にソファーでコーヒーを飲むよく知る姿が…。
「あれ??修ちゃん…??」
出かけたと思っていたその姿に思わず声を出すと、
修ちゃんは紙面から顔を上げて、ふっと優しく微笑んでくれた。
「出かけたかと思ってたのに…。」
御堂さんに紅茶をお願いして
持ってきていた本を手に修ちゃんの向かいのソファーに腰を下ろすと、
修ちゃんは穏やかに話してくれた。
「出かけましたよ。
思ったよりも用事が早く済んで、さっき帰ってきたところです。」
「あ、そうなんだ…。
先生、お元気だった??」
「あぁ。**にも会いたがってた。」
「そか…。嬉しいねぇ…☆」
修ちゃんが尊敬する、剣道の先生。
厳しさの奥に、心底優しいあたたかさがある人の
目を細めて頷いている様子が目に浮かぶ。
修ちゃんも、先生のあたたかさに救われたんだね…。
ふっと修ちゃんに目線を戻すと、
すぐに視線が重なった。
少し目と目がぶつかって、
肩の力が抜けるような柔らかい微笑みをくれる修ちゃん。
………ズルイ…///
私の心が透けてるんじゃないかってくらい、
修ちゃんは何でも分かってるみたいに私の欲しいものをくれる。
時に見せる砕けた言葉に、
急に男の人を意識させる。
先生だった修ちゃんが、
いきなり私の側に歩み寄ったかのように。
その長く組まれた足も、
紙面を走らせる目も、
ソファーに肘をつく姿勢も、
ホントは直視できないくらいいっぱいいっぱいなのに…。
修ちゃんはそんな事はないのかな……///
……って、
い………った…っ!
イタ………っ!
このタイミングで来るか〜…。
惚けていただろう私に、走り出したお腹の痛み。
ぽけん…となっていた顔が歪んでいくのが分かる。
体温が徐々に上がっていくようで、
最後ズキン!という痛みとともに、座ってられなくなって私は背中を丸めてソファーに体を倒した。
「**…??」
喋らなくなった私に気づいたのか、
修ちゃんは読んでいた雑誌から顔を上げて驚いた。
「**っ??どうした??具合悪いのかっ??」
額に滲んだ汗を見て、修ちゃんが珍しく取り乱してる。
あぁ…、その表情見たいのに…。
丸まってなければならない今の運命。
無念……。
なんて事を思ってるうちに、返答がない私に焦りを覚えたのか
修ちゃんは救急車を呼ぼうとしてた。
「ま、まって、しゅうちゃ……。
ちが…、病気じゃないから…。」
痛みのあまり、声がまともに出てくれない…。
これじゃ、見てるほうは確かに焦るかもしんない…。
「病気じゃないって…、その汗尋常じゃないぞっ??
盲腸か何かかもしれないじゃないかっ!」
あ〜……。
う〜………。
修ちゃんじゃ言わなきゃ分からないか……。
ヤダな、言うの……。
よりにもよって、好きな人になんて…。
御堂さん…、帰りはまだデスカ〜…??
「う〜……。ちがうの…。
その…、女の子日和なんデス……///」
「?????」
嗚呼、ダメだ…。
伝わってなひ……。
まだ真剣な顔で疑問符浮かべてる修ちゃんに、
脱力にも似た感覚を覚えて、とうとう私は断念した…。
グッバイ、乙女な私……。
「これは……、月に1かいの、腹痛の日なの………。
女の子なら、誰にでもあるとゆー…。」