裕次
□跳ねる心臓とホテルの一室
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「………ハァ……。」
肺の底から出るような、おもりのような空気。
からだが…重い………。
大きな契約とその交渉のため、海外出張という名で日本を離れたのが2週間前…。
始終、日本語以外の会話が飛び交う中での会議や交渉は、
思ったより自分の神経を削っていった。
《止まる心臓とホテルの一室》
深夜にやっと帰ってこれた、ホテルの一室。
自分の家とさほど違いのない広さのこの部屋も、
やけに無機質に感じる。
指折り数えていくと無気力になるくらい、やらなくてはならないことは山積みなのに、
1度ベッドに倒れ込んでしまうと、体が思うように動かない。
声………聞きたいな………。
こっちに来てから、秒刻みのスケジュールと時差のせいで、
電話越しでさえ**と会話をしていない…。
俺はのっそりとベッドに脱ぎ捨てた上着の胸ポケットから
携帯電話を取り出した。
国際電話対応になっている携帯をのろのろと操作して、
ひとつの項目を表示する。
【留守番電話 1件】
こっちに来てから、もう何回聞いたか分からない録音に、
俺は受話器口を耳を当てた。
『お兄ちゃん…、**……デス。』
少し緊張気味のその喋り口調に、
ふっと肩の力が抜けていく…。
今は大学で講義を受けているだろう自分の恋人は、
時々留守電に声を残していく。
そして1日の仕事が終わって一息つけたとき、
その留守電を聞くのがこっちに来てからの日課になっていた。
お風呂……はいらなきゃな……。
何とか体を起こそうとした、ちょうどその時、
携帯がいきなり鳴り響いた。