雅弥

□私と彼の幸せな日常
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「お、いま帰りかー??」


「うんー!先生にー、冊子作り頼まれて、遅くなったー!」


夕暮れ時のフィールドに、私は聞こえるように声を届けた。






声を届けた先には、夕日に染められた空間に
サッカーボールを足元に佇む影1つ。



汗を拭って、こっちを見つめる彼の後ろには
泣きたくなるような、眩しいほどの夕日が彼を照らしていた。



その光景の中に、大切な人がいる絵は
どこか安心するような、懐かしいような気さえする。




人はこれをなんと表現するのだろう…。






「雅弥くん、ひとり??」


鞄を持ったまま、方向を変えて彼に近づく。


「あぁ、練習はもう終わったしな。今は自主練。」



そう言って、足元のボールをトントンとつま先で跳ねる。


サッカーをしているとき、本当に雅弥くんは少年のように見える。



それは決して幼いとかではなくて、


邪念なく、


一心に、


ひたむきに、


自分の夢に向かって歩いているからだ。







「まだ、帰らない??」


「まだ、な。シュートのパターン増やしたいし。」


「ふーん??」


先を促すようにそう言うと、雅弥くんはゆっくりと正面を見据えた。




「去年はあいつらに連れてってもらったからな。
今年は俺が引っ張ってってやりてぇんだ。」




自分の将来への期待と自信。


その希望で満ちた眼で見つめるその先には、
一体なにが描かれているのだろう…。




こうゆう顔を隣で見た瞬間、
やっぱり好きだなぁと再認識する。



私の好きになった人は、

こんなにも…。










「よーし!私がキーパーやってあげるっ!!」


鞄を置いて、腕まくりしてゴールに歩いていく私に、雅弥くんはニカっと笑った。



「いくらなんでも、お前には止められねーよ?」


「誰もいないより、障害物があるほうが難易度は上がるでしょ??」


そう言うと、雅弥くんはヤレヤレと笑って、1度ボールを高く蹴り上げた。




戻ってきたボールが地面で跳ねて、
その上にトンッと雅弥くんの足が被さる。




ボールに置いた足に重心を置いて、私を見据えてどこか挑発的に微笑んだ。




「言っとくけど、手加減しねーぞ??」


そう言って、ボールから遠ざかる彼。



「言っとくけど、顔には当てないでねー!?お嫁に行けなくなるからー!」


そう言って、飛んでくるボールを見据える私。



「どこの誰の嫁になるってー!?」


助走をつけた彼に、私は前かがみになって声を飛ばした。




「さぁー来いっ!未来のダンナ様っ!!!」



その言葉に、助走をつけていた雅弥くんは一瞬スピードを落とし、
言ってくれんじゃん…。と手の甲で口を覆い、助走を早めた。



「その言葉ー!よく覚えとけよっ!!!!!」










結局、私たち2人は、ゴールが見えなくなるまで
ずっとシューターとキーパーで走りまわった。



そして、大好きな彼に掴まって
雅弥くんの漕ぐ自転車で帰路に着く。





それは、
私と彼の幸せな日常。










【fin.】

08’09.20   KAHIME.


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