雅弥
□その先には…
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「わー☆結構観客来てるねーぇ!」
「まぁ、インターハイで優勝したとあれば、観客も今までの規模とは異なるよね。」
よく晴れた日曜日。
今日は雅弥くんの練習試合。
インターハイでの試合の後、
さらにリハビリを重ね
フルタイム出場の復帰第一戦が、この試合だった。
相手チームはまだ来ていなくて、
今は西園寺学院が試合前に軽く練習を流している。
流すといっても、やっぱりサッカーは走り回る競技だけあって、
雅弥くんは腕で汗を拭いながら
軽く切れた呼吸で選手に指示を出していた。
チームメイトの癖を熟知している上での的確な内容。
その雅弥くんの姿に
同じチームメイトも試合前の硬さがとれたのか、
どこかリラックスしたような表情をしている。
そんな雅弥くんの姿がフィールドにあるのは必然なのに、
それが出来なかったこの数ヶ月間を思い出すと
やっとようやく、いるべき場所に戻れたんだという安堵感が、私を落ち着かせた。
しばらく私はそんな風景を
雅季くんと一緒に眺めていた。
盗み見るように雅季くんを見ると
どことなく安心したような、柔らかい表情をしている。
雅季くんはわざわざ口にはしなかったけど、
やっぱり実際見てホっとしてるんだろうな…。
すると私の視線に気付いたのか、
雅季くんはそのまま私に視線を落とした。
「どうしたの…??」
「……んーん☆ ただ、良かったな、って」
「…そうだね。」
そのまま私たちはフィールドに視線を戻す。
きっと、私も雅季くんも、
兄弟もチームメイトも、
その誰もが
この瞬間を待っていたんだ。
そろそろ相手校が到着するんじゃないかという時間に、
選手の1人がタオルを取りにベンチに戻ってきた。
ふー…と汗を拭うと、私たちがいることに気付いて、
「来てたんだねっ!」
とにこやかに笑って、爽やかな声をかけてくれた。
歩いてくるその人は、
よく見るとインターハイ前
雅弥くんに伝言と、私に話しかけて来てくれた人。
彼はそのまま首にタオルをかけて、フィールドを見た。
「雅弥のやつ、完全復活だろ??」
どこか我が子を誇る母親のようなその言い方に、
チームでも雅弥くんとの距離が近い人なんだと分かった。
そしてこの人も、ずっと待ってたんだ。
仲間が必死に奪ったボールを、
自分が守って繋いだボールを、
信頼して託せる仲間が戻ってきてくれるのを…。