雅弥

□お酒の力と愛の囁き
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「だぁぁ…。疲れた…。」


そう言って雅弥は着ていたタキシードを脱ぎ捨て、その場で上だけTシャツに着替えた。


他の兄弟もネクタイを緩めつつ、リビングの椅子にもたれかかっている。




取引先を招いての西園寺家で開催されたパーティー。




大きな契約の足掛けになるこのパーティーは、普段とは異なり、どこか緊張感ある雰囲気が漂っていた。


そんな中、裕次を始めとする西園寺家の兄弟は、全員ホストという形でパーティーに出席したのだった。











《お酒の力と愛の囁き》













まだ玄関先で取引相手を見送っている裕次を除いているとしても、他の兄弟もさすがに気疲れしたのか大した口は開かなかった。






「みんなお疲れさま…!今日はありがとう。」


御堂さんが淹れた紅茶が注がれたところで、最後まで接客をしていた裕次がリビングに戻ってきた。



「裕次兄さんこそ、お疲れさま…。」


このパーティーに伴って家に戻ってきていた雅季が、扉から入ってきた現党首に声を掛ける。


兄弟みんなに労いの言葉をかける西園寺家のムードメーカーも、さすがに疲労の色が滲み出ているようだ。



「**ちゃんも…!ありがとね。」



隣に座る妹の背もたれに手を置き、身を屈めてお礼を言いつつ、柊が引く椅子に体を沈める裕次。


注がれた熱めの紅茶を一口啜って、ふぅ〜…と肺から息を吐いた彼はゆったりと天井を見上げた後、ふと隣に視線を戻した。



「……**ちゃん…??」


いつもだったら1番に自分を気にかけてくれる、溺愛してやまない妹から何の返事もない。


不審に思って、すすす…と覗き込むように顔を傾ければ、そこにはほんのり赤らめた頬が…。



「あれ……??**ちゃん…、もしかしてお酒まわっちゃった、かな…??」


もう二十歳になった妹は、パーティー会場では付き合いでアルコールを口にする事も出てきた。


が、いかんせん、正直言ってそこまで強くない…。


少し困ったような、焦ったような裕次の問いかけにも、**は答えることなく幸せそうに虚空を見ている。



「そういえば、俺がパーティー終盤に見たときには、取引相手に進められてカクテル飲んでたかな…。」


**のオデコに手を当てながら、裕次が思い出したように言葉を口にした。




「俺が見たときはビール手にしてたけどな。」


「僕が見たときはワインだったけどね…。」


「私がお見かけした時は、お客様の晩酌で日本酒を口にされていましたが…。」


それぞれの目撃証言にリビングが一瞬静まり返ったとき、**の駄々をこねるような声が部屋に響いた。





「だぁぁってぇ〜!勧められたんらもぉ〜ん…っ!!!断れないじゃ〜…ん……。」


大げさなその物言いに、彼女のアルコール許容量が越えていることは一目瞭然だ。



元気良く話しているかと思えば、時折声が眠そうに小さくなる。


それでも喋り続ける**に、周りも耳を傾けつつ紅茶を啜っていると突然**が唸るように声を荒げた。




「まぁーさやく〜んっ!!!」


「…おぅ……。」


椅子の背もたれに片腕を回し、カップを傾けてた雅弥は、とりあえずそのまま顔だけ**に向ける。




「なんでハニーって言ってくれないのぉーっ??!!」


ぐぶは―――――っ!!!!!




いきなり突拍子も無いところからの発言に、飲んでいた紅茶を盛大に吐き出し、
ゲッハンゲッハン咳き込んでいるのを気にとめることなく
**は一気にまくし立てた。




「もう付き合って結構立つのに、雅弥くんてば愛を囁いてくれないっ!!!
ふたりっきりの時以外れも、もっと表現してくれないと不安になるんですーっ!」



心配そうに雅弥の背中をさする御堂さんとは対照的に、
もう1人の執事・柊氏は、一体全体何を言っているのだ…と言わんばかりに目を引ん剥いて呆然としている。



「ちょ……っっ…な……ゲッハンっゴホン…ッ!」


盛大に気管支に入ったためか、呼吸すらままならない彼を置いて、お酒の回った**の話は留まることを知らなかった。




「だって、いまどきの子は、彼のことダーリンって呼んだりするもんっ!!!
なのに雅弥くん、私のことハニーって呼んでくれたことなんて1度もないじゃない…っ!」



「いや、言わないでしょ普通。」


「いまどきの子…って……??」



「雅弥くんは、私のこと、愛してないのぉーっ??!!」


「………聞いてないね。」


「完全に出来上がってますね…。」


兄弟達の至極まっとうなツッコミも綺麗にスルーして、**は顔を真っ赤にして天井に向かって叫んでいる…。
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