御堂要

□そして2人で
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その日は、心地よい季節の風がそよぐ

そんな日曜日だった。








「ごめんなさい、御堂さん。
せっかくのお休みに付き合ってもらっちゃって。」


イチョウ並木の街道。
隣で歩く御堂さんを見上げてそう言うと、
いつもの柔らかな笑顔を返してくれる。


「いえ、私もこうして
お嬢さまと買い物に来れて、嬉しいですよ??」



お父さんの誕生日が近づいてきて、
プレゼントを買いにモール街に出た。


でも、肝心のお父さんの趣味が分からなくて…。



文化祭も近いこの時期、
修一お兄ちゃんも雅季くんも、
学校側の準備でてんてこ舞い。


おまけに裕次お兄ちゃんも、大学で実行委員に携わってるみたいで、
瞬くんは文化祭で出展する絵の仕上げに入っていた。


雅弥くんは、言わずもがな…。
朝早くから、部活の鞄をかけて出かけていった。


そうなると、家にいるのは私だけ。


お父さんのことだから、きっと何でも喜んでくれると思うけど…。



お父さんのあのオシャレな服装を見てると、
どこか気負うものがあって…、


途方にくれて、とぼとぼ食堂に現れて、
ぽつねーん…と昼食のスープを飲んでる私を見て、
用事で来ていた御堂さんが、見かねて声をかけてくれたのだった。







「ん〜…!わからん…っ!!
普段スーツだから、やっぱりネクタイとかカフスボタンとかかな〜…??」


少し敷居が高めのデパートで、
選んでいた財布を両手に、考え込んでいた私に隣で一緒に見てくれていた御堂さんが
助け舟を出してくれた。


「いいかもしれませんね。
旦那様が使われるブランドが近くにありますから、足を運んでみますか??」


「あ、うん。そーしよっかな…☆」


ブランドって言葉に弱いだけかもしれないけど、
普段お父さんが使ってるって要素に安心感がある。


それに、一流ブランドなら、ベースはセンスのいいもの…だよね??


とりあえず持っていた財布を元の位置に戻して、
待っていてくれていた御堂さんの元に走った。







向かったその先は、同じブランドでも、デパート内に入っている雰囲気の空間とは少し異なっていた。


厚い絨毯に、黒が基調の内装。


シンと静まり返っているわけでもないけれど、
余分な物音もしないような…、


ひと言で収束してしまえば、極度に緊張するところだった。



だめだ…。この空間では長いこともたない…、私。



情けないと思いつつも、
顧客と言われるようなお客さんが2,3組いるだけ。


胃の中が少し圧迫されるような感覚を受けつつ、
西園寺家に初めて来たときのことを思い出す。



こうゆうのって、また環境が違うと、慣れないものだな〜…。

……とにかく10分!10分で勝負…!


と、ひとり拳を握るのだった。










結局御堂さんにも見立ててもらって、
1つのカフスボタンを選んだ。


会計を済ませる際、以前お父さんに貰ったカードを出す。


結局はお父さんのお金で払うことになるのだったら、
バイトでもした方がいいんじゃないかと思ったのだけども…、
あいにく西園寺家ではアルバイトは禁止。


材料だけ買って、せめて手を加えてケーキでも作ろうかとも思ったけれど、
最近は、会社が新しく立ち上げた事業で忙しく、あまり家で会えることもなかった。


最初のデパートに向かうまで、
御堂さんにふとそんなことを話たら、


「学生のうちは、それでもいいんじゃないですか??
お嬢様が旦那様に似合うものを、時間をかけながらも選んで差し上げることに、意味があると思いますよ。」


と言ってくれた。


「お嬢様が働かれるようになったときに、
何かプレゼントされたら、きっとまた喜ばれますよ。」


と、優しい笑顔で。


バイト禁止な上、月のお小遣いもカードで渡されていては、どうしようもない。


店員さんが差し出したカード署名用紙を前に、
ちらりと御堂さんの顔を見ると、
私の心情を分かっているかのように、御堂さんは微笑んで、小さく頷いたのだった。
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