松田 隆実:第1章
□隣のぬくもりに
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「ホンマ、堪忍な〜…??」
「それは見とかなきゃダメです。私のことは気にしないで??」
謝る松田さんに、さして気にすることもなく私は返事をした。
《隣のぬくもりに》
早めの夕食も済ませ、食後のコーヒーも飲んだ後、
松田さんは気がついたように時計を見て、
あれ…、今日って木曜日やったっけ…??と聞いてきた。
なんでも明日一緒に仕事をする先輩芸人さんの、特別番組があるみたい。
その芸人さんは私でもよく知っているくらい知名度も高くて、多くの番組で高視聴率を叩き出している。
先輩に会ったときの話題としてや、勉強になることもあって、
私もそういった番組のいくつかは見るようにと、この世界に入るときに言われた。
ましてや芸人さんは、話術や技術の面でも先輩芸人さんに学ぶものは多いんだろう。
しかも明日一緒に仕事をする大物芸人さんの、力を入れて番宣した番組を後輩が全く知らないとなると、それはさすがにマズイ。
一緒にいる私に気を遣ってか、DVDをセットする松田さんに、
明日早いんでしょう??と言って、そのままテレビを見ることを勧めた。
一緒に真っ白の絨毯に座って、番組を見る。
松田さんは隣で、立てた片膝に肩肘をついて、テレビを見つめていた。
画面内で笑いがおこっていても、一緒に笑うことはない。
一視聴者とは違う見方をするその姿勢からは、
何かを探ろうとか、何かを吸収しようという雰囲気が伺えて、そのまっすぐな瞳に胸が小さく音を立てた。
初めのうちは、一緒に見ていた私だったけれど、
チラチラ隣を見るたびに、側にいるのに構ってもらえないことが
なんだか、少し、物足りない…。
すぐ隣には、柔らかそうなニットに、
いつものタバコの匂いがほのかに香る。
構って欲しい…。
そんな想いが静かにどんどん溢れてきて、
…ちょっとくらいなら…いいよね……??
CMにかかりそうなタイミングで、
隣にいる松田さんのわき腹から、そっと腕を回してくっついた。