松田 隆実:第1章
□一緒にいたい
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「お、撮影おつかれさん」
「………え??」
今日の仕事を終えて、スタジオを出た正面の通り。
目に入ったのは、見慣れた車。
そして、その車に背中をもたれさせて待つ、いるはずもない人の姿。
松田さんは私を見ながら、吸っていたタバコを持つ手を掲げた。
《一緒にいたい》
「どうしたん…ですか??」
松田さんの方に走って行って、そのまま彼を見上げて聞く。
松田さんは、ん〜??と言って、私にかからないようにタバコの煙を吐いた。
「仕事が早よ終わったで、**ちゃんのこと待ってたんや。」
そう言って、もう片方の手が私の頭に乗った。
「最近なかなか休みも合わへんし…ちょっと顔も見たいと思ぉてな。」
思いがけない言葉が嬉しくて、そのまま松田さんを見ていると
乗っていた手がポンポンと2回心地いいリズムを刻む。
「食事でもいこか??」
その言葉を実感するまで少しの間が開いて
嬉しさが広がった途端、自分でも分かるくらい笑みがこぼれた。
松田さんはそれを確認すると、もう1度頭にポンと手を置いて運転席に回っていった。
「どこ行きたい??」
車に体を滑りこませてドアを閉めながら聞いてくれる松田さん。
その一連の動作が、なぜかかっこよく見えてしまう私は相当松田さんでいっぱいなんだと思う。
「松田さんは普段どう言うとこ行かれてるんですか??」
逆に聞き返すと、行ってるとこ言うてもなぁ〜…と少し考えるように答えて、
「行っても仕事帰りに慎とバーとかやで…??」
けど、**ちゃん酒飲まれへんやろ…??
そう言って、とりあえずこの辺探してみよか??と車を走らせてくれた。
日に照らされる時間とは違って、少し静かに感じる車内。
深くかかった藍色の夜を背景に、
対向車が通り抜けるサァーと言う音がする度に、松田さんの横顔がライトでわずかに照らされる。
ハンドルを切る音。
レバーを切り返す音。
かすかに香る、タバコの匂い。
それに気付いたとき、急に心音がドキドキ言い出して私は咄嗟に口を開いた。
「まさか松田さんが待っててくれるなんて思わなかったので驚きました!」
松田さんは前を向いたまま、思い出したように少し笑って、
そない言うたら、俺も久しぶりに外で人待ったな〜。と笑った。
「…………松田さんて、今まで彼女さん待つのに、どこで待ち合わせしてたんですか…??」
思わず出ていた言葉に、自分で自分に驚いた。
一瞬真っ白になった頭に、ご丁寧にも脳がゆっくりとさっき口にした言葉を送り出す。
わ…!!!
やっぱり口にしたんだよね…っ??
どうしよう…!!!
一気に体が熱くなって慌てる私の隣で、
さすがに松田さんも少し驚いているのが分かった。
「え〜…と………。
……俺があんま外に出るの好きやない方やから…、だいたい向こうが俺の部屋来てた…んかな……??」
どこか気まずげに、自分に確認するように答えるその口調に、
さっきまでの申し訳なさは、海の潮が引くようにサっとどこかに引いていった。
「私、松田さんの部屋に行きたいです。」
さっきとは打って変わって、きっぱりそう口にすると、
「え…??…ええけど、なんもあらへんで…??」
と少し戸惑う声。
「スーパーで食材買って、私が作ります。
行きたいです!」
もう1度強く言い切ると、松田さんは少しためらいながらも、車の進路を変えた。