松田 隆実:第1章
□私の恋人
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目の前にはタバコ片手に、
渡した台本に目を通してくれている松田さん。
わずかに落とした視線は、
普段の顔とは少し違って見えて、その横顔にドキンと心が波打った。
《私の恋人》
「どうですか…??」
松田さんが最後のページを捲ってしばらくたったころ、
私はおずおずと彼に意見を求めた。
「ええんやない??
面白いと思うで??コレ。」
「やったー♪」
片手で差し出された台本を、私は笑顔で受け取った。
ドラマの主役が決まって早2週間。
ようやく手元に台本が届いた。
今回私は恋愛で悩む24歳の女性を演じる。
このドラマの脚本家が最近大きな賞を獲得されて、
その影響か、この作品はプロモーションが始まる前からメディアの注目を浴びていた。
社長も山田さんも喜んでくれて、
その姿を見ると、演技も成功させたいと言う気分になる。
「あ、で。
台詞入れてきたんで、松田さんに読み合わせ付き合ってもらいたいな〜…って///」
作り上げた役を見て欲しくて言った私の言葉に
松田さんは、あー…と言いにくそうに答えた。
「あんま…、そぉゆうのは、せぇへん方が…いいで??」
「え…??」
まさか断られると思ってなかった私は、少なからずビックリして松田さんの言葉を聞き返した。
松田さんなら、きっと一緒になって喜んでくれて…
太陽の光の差し込む柔らかなこの部屋で、2人だけでこんな恋人役を演じられたらと、ほのかな期待をしていた。
「あー…、いや、やりたないちゅうてる訳やなくて…。」
私の顔を見た松田さんは、言葉を選ぶように、気まずそうに頭を掻いた。
「俺芸人やから、演技に関しては素人やねん…。
なんやこうゆうのって、練習と本番で相手役の技量が違うと戸惑ったりするやろ…??」
俺も漫才のネタ、慎以外と合わせると掛け合いの間で、違和感感じたりするやろしなぁ…。
そう言って、松田さんは申し訳なさそうに私の方を見る。
「せやから読み合わせは出来ひんけど、応援はしとるで、頑張りや…??」
その後、いつもの優しい笑顔があった。
――――――――――――
「松田さん!見てくださいっ♪
ドラマ!初回視聴率20%超えたんですっ☆」
「おー!よかったやん!
20は簡単には出ぇへんで??」
そう言って、頭を撫でてくれる松田さん。
私は数字の載った雑誌を持って宇治抹茶の楽屋に駆け込んで、嬉々としてその紙面を見せた。
「松田さんも見てくれましたっ?!」
すると松田さんは、
「あー……、すまんなぁ…。
その日はちょうど、営業に行っててん…。」
「あ……、そう、ですか…。」
「ほんでも良かったやん。初回波に乗るのと乗らへんのとじゃ、この先も変わってくるで??
まぁ、初回良くても落ちるケースはあるやろうけど…、
**ちゃんの演技でもまた数字上がったりするやろうし、頑張りや??」
そう言って、頭にポンっと叩かれた。
――――――――――――
あれから、松田さんはどこか変だった。
変というより、
ドラマの話になるとあまり話題に触れたがらないと言う方が正しいかもしれない。
それまでは普通に話してるのに、その話になると私の話は聞いてくれるけど
自分から話を聞いたりはしてこない。
…応援してるって、言ってくれたのにな…。
あの時の言葉を思い出して、少し寂しくなる。
私の考えすぎなのかな…。
私も、お笑いの話をずっとされても、ついていけないとこあるだろうし…。
ひとりで騒ぎすぎたのかなぁ…??
なぜだか気分は晴れなかった。