頑張れヒーラギくん

□ひとりでできるもん
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まだまだ西園寺幼稚園で頑張っていたヒーラギくん。




なんとなく忘れられていたヒーラギくん。




男の戦いは所詮1人だと、男気溢れるヒーラギくんでした。













《ひとりでできるもん》













「はぁ……。」



給食も終わった、まったりとした時間。



秋の風も部屋に入ってくるような、そんな季節になりました。






ため息とともに零れるは、優雅なピアノの調べ。



彼の本来の顔は、財閥に仕える執事。



楽器の1つや2つ、お手の物です。



クラシックからジャズまで、幅広く弾きこなせるヒーラギくんですが、
残念な事に、幼稚園で必要なアニメソングなんぞ知りません。



現に、さっきから流れているのは




【モーツァルト作曲・レクイエム】




うららかな日差しの中、この教室だけはまさかの梅雨到来でした…。












「せんせい、りょうり、する??」



断片的に並べられた単語。



見下ろせば、自分のエプロンを掴んでこちらを見上げる女の子。



そう、絵の上手なナノちゃんです。



今日は柔らかそうな髪の毛が、ゾウさんのヘアゴムで救い上げられています。






以前2人で一緒にお絵かきをした時、
ワシントン条約で保護されるのではないかというような動物を描き上げたヒーラギくん。



ゾウの特徴の欠片もないその作品は、芸術に寛大なヨーロッパの人間も、首を傾げた事でしょう。



そんな彼が自称する絵は、夏休みの一時帰省の際に
西園寺家で大きくウケたものです。



普段心優しい優雅な執事仲間さえ、口元を覆って笑いを堪えているその姿…。



そんな彼も出来たフォローは



「何と言うか……。一生懸命描いたのが伝わってきますよ。」



と言う、まるで自分が園児を褒めるときのようなレベルの内容。




本人笑わそうという概念はなく、至って真面目なため、
1人落ち込んだヒーラギくんでありました…。









「く…っ。ゾウめ…。」


「???りょうり……。」



あの時の1人だけ、ぽつねんと影が落ちたような自分を思い出して、
思わず声に出してしまったヒーラギくん。



「あ、あぁ…。料理だったな。それがどうかしたのか??」



「せんせい、りょうり、する??」



「必要あらばするぞ。」




もっと言葉を砕け、ヒーラギくん!!!



これまで大分改善してきましたが
こうゆうところは、まだまだです…。




「恵理ちゃんがね、りょうりしたんだって。」



恵理ちゃんと言うのは、同じゾウ組みさんの女の子です。



そう言ってナノちゃんは、小さな女の子を紹介してくれました。



小さい子に人気のスタンプでは、


【大変よくできました!】


の名誉ある烙印が押される行為です。







「きのうね…、おかあさんにね、ごはんつくってあげたの…。」





恥ずかしそうに言う恵理ちゃんは
お腹が空いてなくても胃袋に入れちゃいたいくらい可愛い園児です。



やっと共通の話題が出たことに感激したヒーラギくんは、
しばらく料理話に花を咲かせました。



社会人と幼稚園児の共通の話題にしては、
かなり園児が頑張ってくれている状況というのは、この際ノータッチです…。




「卵は白身をメレンゲにするとフワっとするぞ。」


「しろみ…??」


「卵の白い部分あるだろ??あれをメレンゲにするんだ。」



大して変わりのない言い換えですが、
彼女は元気いっぱいに復唱してくれました。




「デレンゲっ!!!」



「…メレンゲ、な……。」



自分の説明がなってない事に気づかされるも、



「せんせい、すごいんだぁ〜…☆りょうりできるんだね。」



と言う、ナノちゃんの言葉に気を良くした彼は
珍しくウキウキしつつ、持てる知識の披露会に入りました。






「そうするとラー油が出来るんだ。」




一体園児に何の説明をしとるのだ…??
と言いたくなるような単語が飛び交うと、さすがに2人も首を傾げます。



「………らーゆ…??」



「えっと……。……辛いヤツだ。赤くて………辛い……。」



園児並みの単語の並びに、
恵理ちゃんは思いついたように、明るい顔を上げました。




「わかったっ!おじちゃんたちがすきなヤツだっ!!!」



「おじ……っ!!!」




言葉を失うヒーラギくん。



あぁ、哀れ、ヒーラギくん。



打ち解け始めたと思えば、今や分類は“おじちゃん”です…。










頑張れヒーラギくん!!!



ダンディーなおじさんは35歳からだぞヒーラギくん!!!



そんなこんなを乗り越えつつ、



彼の実習はもう少し、続きます…。














【fin.】

09'08.28 KAHIME.

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