松田 隆実:第2章
□はじめての喧嘩
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「そういえば松田さん……ぁ…。」
前を向けば隆実さんも驚いたような顔をしてた。
そして懐かしそうに微笑む。
「なんや…それ、懐かしいなぁ…。」
思わず出た前の呼び方に、ふたりでちょっと笑ってみた。
《はじめての喧嘩》
「あ、慎之介さん。ちょっと…相談乗ってくれますか…??」
「??別に構へんで…??」
テレビ局の廊下で偶然**ちゃんと会うたんやけど、その表情はちょっとばかし神妙な顔をしとった。
そんで**ちゃんは珍しく憤っとった。
「仕事じゃ仕方ないから日程ずらしたのに!女の人に腕とらせといて、目撃されたらそれが仕事なんて言うんですよっ??」
今までの話を要約すると、
彼女が食事に誘った日、彼氏のほうは仕事を理由に断って他の女性とデートしとったらしい。
仲良う腕まで取らせて。
そこを運がえぇんか悪いんか、彼女が目撃してもうたっちゅー話やった。
しかも、往生際が悪いことに、その晩の説明で男は
あれは仕事で…と言いおったらしい。
ホンマ、男の風上にも置けんヤツやで…。
「そんなん、その男のいい言い訳やで〜。現場を見た以上、言い逃れは出来んのになぁ…。
**ちゃんは男の言い訳に巻かれたらあかんよ??そんなん言うヤツおったら早よ別れさせたらんと。」
「やっぱりヒドイですよね??」
「ありえへんわ〜。ホンマに好きな女の子には絶対せんで、そんなこと。」
「じゃ、じゃあ…。その人にとったら、その子のことは……本気で好きじゃないってことですか…??」
ちょい**ちゃんの表情は雲って、えらい悲しそうな顔色やったけど、
ここは男として、その**ちゃんの友達を救ったらなあかんでー!
思うて、俺は最後の決定打を連打で押しにかかった。
「そんな男は裏あるに決まってるで!そういうヤツは上手くやるんやで??」
言い切った俺に、**ちゃんはちょい涙目で唇を噛んだ。
ホンマ、友達想いのえぇ子やなぁ〜…。
隆やんも幸せもんやで。
しみじみ思うた俺は、暗い話から一転してラブラブ中の彼氏のことを聞いてみた。
「ところで隆やんとはどうや〜??」
間違いなく顔真っ赤にするんを想像しとった俺は、その後に続く言葉に度肝を抜かれた。
「別れますっ!」
「………っでぇぇぇ??!!ななななんでやっ??!!
付き合い始めて3ヶ月なんて、幸せ満載、ラビューンラビューンな時期やろぉっ??」
「だって、そんなことする人は裏があるんでしょっ??」
「………って、さっきの**ちゃんの友達の話やなかったんか…??」
「松田隆実さんですっ!」
「い、いや**ちゃんっ!それ絶対なんかの誤解やでっ!!
四六時中一緒におる俺でさえ、**ちゃん以外の女の子と必要以上に親しくしとる隆やん知らんでっ??」
「“そういうヤツは上手くやるんだ”って、さっき慎之介さん言ってたじゃないですかっ!」
「う………。や、でも隆やんに限って…」
「“現場を見た以上、言い逃れは出来ん”とも言ってましたっ!」
「ちょ…っ!ちょお待って**ちゃん、落ち着…」
「“男の言い訳には…っ、巻かれるな”って…さ、さぁっき言ったじゃないですかー…っ!!!」
わ、わーっっっ!!!
な、泣き出してもうたーっ!!!
隆やーんっ!!!プリーズ・カムヒアーやでーっ!!??
心の中でそう叫べど、当の本人はこの場には現れん…。
そういや今は雑誌の取材中や。
来れんで当たり前やわ……。
スパートかけて叩き込んだ話の内容を慌てて挽回するも間に合わず、
結局、その場は迎えにきた山田さんに連れられて、嵐のように取り乱した**ちゃんは次のスタジオへとズルズルと連行されたんやった…。