柊 薫
□01:手 『好きな人との4つのお題より』
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「ねぇ、どっか連れてって」
「……は??」
それはパリで大雪が降ったと、ニュースで白いエッフェル塔を見たそんな1日から始まった。
《01:手》
「“は?”って…。デートだよデート。ねぇ、どっか連れてって♪」
ヒーラギの反応を見て、こりゃ望み薄いぞと、普段は付けない音符マークなんぞ付けてルンタッタとお願いしてみる。
膝に乗せて読んでた雑誌はそのままに、返ってきたのは苦虫踏みつぶしたような表情。
呆れたようなジト目が「似合ってないぞ」と電波を発してる。
それはちゃんと分かってマス。
心の中でしっかり呟いた時、ローテーブルに置いてた携帯が時刻を一瞬浮かび上がらせた。
オクロックになると控えめに光る白い携帯はなんとなくヒーラギを連想させて、2年前から私とタッグを組んでいる。
全体的に白いシンプルな部屋。
アイボリーのズボンにブラックのVネックのニット。
そこに長めの銀髪がさらっと揺れる。
休日くらいラフな格好すればいいのに…。
上下黒のジャージに、後ろで髪の毛結んで缶ビール片手でさ…。
仕事柄なのか育ちなのか、黙っていても漂う品の良さ。
……仕事柄だと思いたいな…。
住む世界が遠くなる感じがして、無理矢理後者だと結論付ける。
「どこ行きたい…??」
黙っていた時間は長かったのか短かったのか、気が付けば視線が下がっていた私にかかった声。
顔を上げれば、雑誌を閉じてこっちを見ているヒーラギ。
「外…散歩したい…。」
せっかく連れてってくれるって言ってるのに、いざとなると仕事疲れを気にして我が儘が言えない私。
「……寒いだろ。」
「……じゃあ手、繋いで歩いて。」
冷静な頭で考えれば至極全うな事を言ったヒーラギに、ふて腐れて出た言葉は、私の中では信じられないような可愛い言葉だった。
それは冬の気配が深まりつつある、街の雰囲気が言わせた言葉だったのかもしれない…。
【fin.】
'10.12.12 KAHIME.