柊 薫
□02:肌 『好きな人との4つのお題より』
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「ねぇ、どっか行こうよ♪」
「………どこかで聞いた言葉だな…。」
「違うよ、こないだのは“連れてって”だよ。今日は私が連れてったげる♪」
ホワイトクリスマスになるはずの雪が、遅足でようやくこの地に辿り着いた土曜日。
あまり連れ回してもと普段思う私も、この日は心踊る高揚感がまるで違った。
《02:肌》
「車買った。」
聞かれてもいないのに自分から報告。
「……はっ…??」
前回聞いた返事と声色が違うことに、してやったりとガッツポーズ。
「車買ったの♪エリシオンのプレステージ♪」
「いつ…??」
「ブラックパールなんだよ♪」
「いや、話を聞けよ…。」
「だからどこか行こうよ、連れてったげる♪」
浮き足立っている私と、話の文脈から新車を走らせたいのだと理解してくれたヒーラギ。
それでもヤレヤレとも、お前にはその車大きすぎないか??とも言わず、この気持ちに水を差すことなく黙って付き合ってくれる。
結局、ヒーラギは大人なんだと思う。
カーテンを少しだけ開けて、雪景色になった白い街を眺める。
色を無くした世界は、いつも見ている風景を真新しいものに変えてしまう。
普段聞こえる車の通る音も雪が飲み込んで、シンと静まりかえった中で、なぜかバサッと室内で響いた空気。
振り向けば、着ていたセーターを脱いでいるヒーラギ…。
「…って!ちょっとなに服脱いでんのっ///??」
想像だにしてなかった分、なんか、めちゃくちゃ恥ずかしい…!
「セーターん中にもう1枚着るんだよ。雪積もってる中これじゃ寒いだろ。」
「だからってここで着替えなくてもいいじゃないっ!」
直視出来ないまま視線を落とせば、「他の部屋エアコン入ってねーんだよ」といつも通りの声色。
大きな背中に傷ひとつない綺麗な体。
思ったよりも逞しい、程良く付いた筋肉。
いつもの執事服の下がこうなっている事なんて、誰も知る人はいないだろう。
何か話そうと開けた口のまま、それでも発せられなかった言葉に、絡み合う視線。
続く会話を待っていたのか冷静に私を見る彼の目は、それでもドキッとするほどの切れ長の瞳だった。
自分だけがやたら慌ててる状況がこれまた羞恥を煽って顔が熱くなっていく中、心臓に響く低い声でヒーラギが言った。
「恥ずかしいなら、後ろ向いとけ。」
シャツに袖を通すその所作で長い髪の毛がさらりと揺れて、それがやたら艶やかで男性を意識させて
私は思わずカーテンをキュッと握って窓の外に視線を投げた。
今度は衣擦れをかき消してくれる、外界の些細な音に意識を集中しながら。
【fin.】
'10.12.12 KAHIME.