柊 薫
□03:愛 『好きな人との4つのお題より』
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視線を感じる……
そんで、やけに緊張する…
なんでこんな……
《03:愛》
ふたりで入った喫茶店。
車で少し足を伸ばしてみた、いつも気になってた【西洋喫茶】の看板が目立つコーヒー専門店。
ミルで挽いた豆にサイフォンで入れたコーヒーをアンティークの食器で楽しめるのが売りになっている。
外観も、外からチラっと見える照明も敷居の高さを覗かせて
入るならヒーラギと一緒と決めて、いつもは敬遠して通り過ぎていたこのお店。
かかるクラシックのBGMと店の雰囲気に飲まれることもなく、マスターのいるカウンターで静かにコーヒーが飲めますか…??
てかこの店でカウンター選ぶかフツー…。
普段あまり経験しないような場所では、人は少なからず緊張するものだけど
それを微塵も感じさせないヒーラギの動きはひとつひとつの所為を優雅引き立てる。
目立つ髪色に加えて、持ち前の長身と端正な顔立ち
それは来店していたマダムやお姉さんの注目を集めるには充分だった。
反対に私は店の雰囲気に萎縮しておまけに視線の的まで頂いちゃって、正直言って地に足が着かない…
その緊張に、最近やっとコーヒーが飲めるようになったと言うのも手伝って、味の善し悪しも判別が付かない。
いや、値段を見れば良いに決まってるんだけど…
ヒーラギって、美形と言えば美形なのか…
普段あまり気にもしていなかった事に、周りの反応で改めて気付かされる。
彼との壁を感じるのと同時に、人から誤解されやすいヒーラギが好意的な目で見られているのは、素直に嬉しい。
さっきまでは、馴染めないからなんか喋ってよとか、隣りだと首横に回さないとうっかりマスターに話しかけたみたいになっちゃうんだけど…って思っていたのに、今は隣りで良かったと思う
きっと今の私は、美味しいと味わえるまでに戻ってきた味覚でコーヒーカップに口づけながら、にやけるのを必死で押さえつつ、それでも幸せな顔をしているはずだから…
メイクルームで普段しないグロスだけ直して戻ってみると、会計を済まして壁にもたれて待っててくれるヒーラギの姿。
今日は私がごちそうしたかったんだけどな…
こういうさり気なく済ます気遣いは、エスコートされてるみたいでいつもちょっと照れる
令嬢や来賓に対しては仕事の内なんだろうけど、プライベートで全ての女性にそう接する程フェミニストやプレイボーイな奴でないのは付き合いの長さで知ってるから…。
付き合い始めの頃、その愛情表現の乏しさに何度も自分は彼女なのかと不安に思っていた時期。
元々人付き合いも不器用なヒーラギだったから、これは実は大切にされてたり愛されてたりするんだと思えるようになったひとつとなった。
それが彼なりの愛情表現だと気付くまで時間はかかったけど、今は安心して隣で息をすることが出来る唯一無二の愛しい存在。
ちょっと回想に耽っていた私に気付いたヒーラギは、駆け寄る私を待って
また、何事もないようにゆっくりとドアを開た。
【fin.】
'10.12.18 KAHIME.