雅季
□誰よりも…
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『あんまりソワソワしないで〜♪
あなたは・いつでもキョロキョロー☆
よそ見をするのはやめてよ〜!
私が誰よりいちばん〜♪』
好きよ(好きよ)好きよ
好きよ(好きよ)好きよ〜♪
**が歌わないところだけ、
この部屋にスピーカーから音楽が響く…。
休日の昼過ぎ。
裕次兄さんがカラオケに行こうと提案して、乗り気でない僕の服の裾を、**が有無を言わさず掴んだ。
『あ・いしーてもっ♪あーなたーは・知らーんぷーりで〜…☆
い・ま・ごーろはっ!誰か〜に夢中〜…。』
「………。」
『ああ〜!男のっ人ってぇ〜…。
いくーつもぉ〜!愛を持って〜いるのね〜…!』
歌詞に込められたメッセージに含みをかけて歌い上げる**を見て、
兄弟達が何事だ…、と言わんばかりに、
焦った視線を送ってくる…。
歌詞の内容だけではない、
**の言いようの無いメッセージが込められているようで、
事情を知らない5人を含めて、この部屋は異様な空間と化していた。
『ああ〜…♪男のっ人ってぇ〜…!
なんにーんー!好きな人が〜・ほしいのぉ〜??』
そんな雰囲気もお構いなく、
**は最後までそのアニメソングを熱唱した。
『好きよ』が繰り返されるフレーズだけは、器用に見事省いて…。
「ハイーッ♪
次は、裕次お兄ちゃん〜♪」
「あぁ…、うん……。」
**から差し出されたマイクを受け取って
すでにこの雰囲気になる前に選曲を入れていた裕次兄さんは、
僕達の様子にハラハラと視線を入れつつ、
別れのバラードを、歌いにくそうに気まずげに歌っていた…。
「はぁ〜♪やっぱり歌うって気持ちいいよねっ☆」
選曲の本に視線を落としている僕の隣に**が座って、
手元のリモコンを手に、次の曲を入力した。
【ピンクレディー・SOS】
画面に映し出されたこの文字を見て、
歌っていた雅弥でさえ、一瞬声を詰まらせた。
「………まだ怒ってるの…??」
「え〜??なにが〜??」
「………。」
完璧な笑顔でそう返され、僕には次の言葉が出せなかった。