雅弥
□お酒の力と愛の囁き
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ようやく回復した雅弥に、唯一信じられないというような表情をした次男が言及をした。
「…雅弥……。お前、**ちゃんにそんな事も言ってあげてないのか…??」
女の子が欲しがるような言葉を、素で言ってしまうような兄に、雅弥は不貞腐れるように言い捨てる。
「…悪かったな…っ!俺はバカ兄貴と違ってそう言う気の利いた事は言えねーんだよっ///」
そもそも数年前まで男所帯だったこの家庭に、こんなことが話題に上がることはなかった。
付き合い始めと違って、大分照れと言うものがなくなってきた雅弥だが、
それを兄弟の前で暴露されるとなるといささか気恥ずかしさを感じるのだろう…。
「愛がほしいんれすぅ〜…。もっと愛をささやかれたいんれすぅ〜…。」
猶もテーブルに突っ伏して孤独な独り言をブツブツ言う**に、見かねた柊が部屋に運ぼうかと動いたが、
頭を掻きむしりながらそれを右手で軽く制した雅弥がガタンと席を立ち上がった。
「だぁー……。ほら、部屋行くぞ。そんで化粧落としてもう寝ろ…。」
「やぁー…だ…。言ってもらうんだもぉ〜ん……。普段雅弥くんが…言ってくれないのが悪いんだもぉ〜ん……。」
自分では立ち上がらない**を、
はいはい、悪かった悪かった。と投げやりに返しつつ、その小さな体を少し無理やりに抱き上げて歩を進める。
「ハニー…って、言ってぇ〜…??マイエンジェルって言ってほしいなぁ〜…///」
抱き上げらる彼の首に腕を回し、どこか夢見る**にテーブルから掛かった裕次の声。
「あ、エンジェルならお兄ちゃんが言ってあげるよ♪」
「え??ほんと〜??」
嬉しそうに腕の中から身を乗り出す**を見て、雅弥はげんなりと兄を見た。
「頼むからやめてくれよ…。兄貴が言ったらまた俺も言われんだろ…。」
「そのくらい言ってやれよ。それに**ちゃんは本当に俺の天使だからねっ♪」
それを聞いて上機嫌で手を振る**に、軽快なウインクを返す兄を見た彼は、ひとつ溜息をついて**の部屋へと扉をくぐっていった。
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お姫様の靴を脱がせて、少し火照った体をゆっくりとベッドに沈めてやる。
引っ張り上げたシーツを胸元まで上げてやって、幸せそうに眠るそのオデコにひとつキスを落とした。
最近練習ばかりでろくに話せない時間が重なったなか、自分を理解して我侭も言わず応援してくれる彼女の…
小さな……
本当に、小さな願い…。
「ハニー………ねぇ……??」
ガシガシと頭を掻きつつ
「ホントにこんなん言う日本人いるんか…??」
とぼやきながら、
愛しい彼女を起こさないように、そっと部屋を後にしたのだった…。
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「おっはよー♪**ちゃんっ!お兄ちゃんの可愛いマイエンジェルっ☆」
本当に言った……と言う全員の心の声を背に、昨夜の約束事を忠実に実行した裕次の目に映ったのは、
歓喜に満ちる表情ではなく、打って変わって訝しげな顔をする**だった。
「………お兄ちゃん…どうしたの……??」
「え…っ??だって昨日**ちゃんがそう呼んで欲しいって……。」
キョトンと首を傾ける兄に、心底心配そうに妹は裕次を見上げた。
「裕次お兄ちゃん…、きっと疲れてるんだよ……。
最近大きい契約で忙しそうだったし…。今日は出来るだけゆっくり休んで…??あんまり無理しないでね…??」
パーティーでのアルコールとともに、昨夜自分が喚いた記憶も綺麗さっぱりなくしている**は、
目をパチパチとさせる兄に労いの言葉をかけた。
「え………??そうだっけ…っ??」
最近の激務に、イマイチ自分の記憶に核心がもてなかったのか
朝食を取っている兄弟に不思議な顔で話しかけに行く兄の背中を見ていると、
「よ…、マイハニー…。」
と言う、まだ少し気だるそうな声が隣から聞こえた。
よく知る声が紡ぐあまりにも聞きなれない言葉。
「………どしたの…??」
挨拶を返しつつも頬を染める彼女に、隣の彼はどこか不敵に口の端を上げた。
「お前が昨日言って欲しいって喚いたんだぜ??」
「うそ……っ!!!」
「おー。愛を囁けだー、エンジェルと呼べだぁー、天井に向かってひとり騒いでたなぁ〜。」
「!!!!!」
「酒の力って怖いよな〜。」
どこか面白そうにニヤニヤ笑う雅弥と、赤面しながら青ざめるという器用な芸当をこなす**。
居たたまれないような表情をする兄弟の中で、彼女は彼に1つの誓いを立てるのだった…。
「もうしばらくお酒は自粛させていただきます…っ!」
「おー…、そーしてくれい。」
やがてそれから、パーティーではアルコールを断る**の姿が目撃されるようになったそうな。
【fin.】
09'05.21 KAHIME.