御堂要

□そして2人で
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秋の街道を2人で歩く。



あれから御堂さんの用事も済ませに行った。


入ったのは、シンプルな基調のお店。


部屋のインテリアに必要なものが揃ったその店内は、
どこか御堂さんの部屋にも似ていて、安心するような雰囲気だった。


御堂さんが店員さんと話している最中、私は店内を見て回った。


ふと、目に留まったオルゴールを見ていると、
買うものを決めた御堂さんが来てくれて、そのオルゴールも一緒に買ってくれた。



「そんな、いいですよ!」


と焦る私に、
御堂さんはあたたかく微笑んで、


「西園寺家でも、思い出になるようなものを増やしていきましょう??」


と言ってくれた。















ぜんまいを巻いて、木の蓋を持ち上げる。

そこからは、オーディオから流れる音とは違う、
ゆったりとした音色が紡ぎだされる。


しばらくその音に耳を傾けていると、隣に小さな暖かいぬくもりが寄り添ってきた。





「おかあさん…、それなぁに??」





後ろから、少し珍しそうに覗き込むその姿に、
表情が自然とほころんでしまう…。



「オルゴールっていうの。
これはね、けっこんする前に、おとうさんが おかあさんにくれたのよ。」


「おとうさんが??」


「そう。はじめて一緒にでかけたときに買ってくれたの。」



そのまま物珍しそうに くっついたまま、肩越しから覗き込んでいた息子は、
少しはにかんで、ぱっと顔を上げた。



「もしかして…、“おもいでの しな”っていうの…??」




もうすぐ3歳になる息子から、そんな言葉が出てくるとは思わなくて、少し唖然としてしまった。


「…そう。思い出の品…。
そんな難しい言葉、よく覚えたね〜っ!!!」


思わず頭をなでてあげると、家で教えてもらったこと以外にも、
自分が知っていることに嬉しくなったのか、


「おもいでのしな〜♪おもいでのしな〜っ♪」


と喜ぶ。


子供の成長を感じる時のひとつ…。





西園寺家での生活にも慣れ、
兄弟のみんなとも、自然体で話せるようになったあの頃。


当時17歳の私には、まさかこの未来に辿り着くとは、
想像だにしなかった。



あれから、彼が言ってくれたように、
西園寺家でのいろんな思い出は増えていった。


学校での行事には、もちろんお兄ちゃん達や瞬くん、彼が来てくれて、
みんなで別荘で過ごしたりもした。



お花見、海、夏祭り、ハロウィン、スキー、お正月、誕生日……



そして季節は何度も巡って、
私たちのフィールドも、
その守られた場所から開かれた世界へと変化した。


時は幾度と流れて
人は成長しながら変わっていくものだけれど、


私には、ひとつ、
変わらない存在があった。



それは、
いつもそばにいてくれた人の存在



困ったときには 手を差し伸べ

必要があれば 諭してくれる

つらい時期には 支えてくれて

嬉しい時は 一緒に喜んでくれる




彼は、私とともに生きてくれた。




そして、気がつかないうちに
一緒に歩みだしていたあの日から
数年の歳月が流れたとき、


私たちは結婚した。









少し懐かしい思い出に浸っていると、
部屋のチャイムが鳴り響いた。


飛び跳ねていた息子は、おとうさんだーっ!!!と玄関に走っていく。


きっと、自分の覚えた言葉について、
一番に報告するんだろうなと思うと顔がほころんで、そのあとへと続いた。







数年前、ともに生きることを約束した


愛しい人を迎えるために…。












【fin.】

08'10.19   KAHIME.

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