松田 隆実:第1章

□大人になるまでは
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「美味しかったで。ごっそさん!
それにしたかて**ちゃんは料理上手やな。ええお嫁さんになれるで??」


“お嫁さん”と言う言葉に、思わず反応して顔に熱を感じる私を見て、
松田さんは笑って、コーヒー飲むか??と聞いてくれた。


いただきますと返事をすると、彼は大きな手を私の頭にポン…と乗せて、待っててな。と立ち上がってキッチンに向かった。



日もすっかり落ちて、食事も終わった時間。



幼少期から両親が不在がちだったこともあって、料理は一通りこなせるようになっていたことに心の中でひそかにガッツポーズが出る。


松田さんの部屋で2人向かい合ってご飯を食べる事が、なんでか無性に嬉しくて、
私はあまり食が進まなかったんだけど、松田さんはそんな私の向かいで食べ終わるのをゆっくりと待っていてくれた。




「ほい。熱いで気ぃつけてな。」


「あ、ありがとう…。」


差し出されたマグカップを受け取って、そのまま思わずじーっと見ていたのか、


「ど、どないした…??」


と不思議そうな声がする。



「あ…、いえ…。
いただきまーす…☆」



松田さんが普段使っているカップを、さして気にすることなく差し出してくれたことに
少しくすぐったさを感じる。



あ……おいしい…。



いつもは少し苦味の感じるコーヒーを美味しいと思うのは、入れ方の問題なのかな…??


そんな事を思って、私は再び唇をつけた。












「いいですよ。
松田さん疲れてるんだし、ゆっくりしててください☆」


私が洗い物をしている間、松田さんはテーブルを片付けてくれてて、
テーブルを拭き終わった後、一緒にお皿を洗い始めてくれた。


「えぇのえぇの。
実はこうやて好きな子と並んで洗いモンとかしてみたかったんや。
**ちゃん女の子なんやから手ぇ荒れるとアカンで、隣で洗った食器拭く方にしとき??」



いつもさりげなく気遣ってくれる。


その暖かさに、思わず笑みが零れてくる。



腕まくりして食器を洗う松田さんを見つめると、ん…?と言って少し笑う。



時計を見れば、夜の8時。
きっと松田さんは、車で家まで送ってくれるだろう。


こんな時間が永遠に続けばいいのにな…なんて考えが頭をよぎって、この幸せな1日が終わってしまうことに、少し寂しさを感じた。









結局この日は、
洗い物をした後、松田さんが家まで車で送ってくれた。


「ありがとうございました!」


「お疲れさん。また…スタジオでな」



そう言って柔らかく微笑む大人な松田さんがちょっと悔しくて、
私は本日最後の勇気を振り絞った。



「え……。」



勢いに任せてキスをした左ぽっぺ。
見てる余裕なんてなかったから、目をつぶって唇を寄せた。


掠めたのは一瞬だったけど、かすかに触れた松田さんの頬の感触…。



「お、お疲れ様でしたっ///!!!」




そう言って、顔も見ることなくダッシュで家に向かって走っていく。


ガシャンと門を閉めて家の中に入ろうとしたとき、
まだ松田さんの車が動いていないのが視界の隅に入ってきたけれど、
今の私には車に向かって頭を下げる余裕は、ひと欠片も残っていなかったのでした…。









「…………堪忍してや…///」


そう言って、車の中で力なくハンドルに思わず持たれかけた彼の姿を、**は知らない…。












【fin.】

08'11.25   KAHIME

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