松田 隆実:第2章

□はじめての喧嘩
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「ホンマにすまん…。まさか隆やんとはいざ知らず…。」



「いや…、こればっかは事前に説明しとらんかった俺に責任あるで……。」



楽屋で一通り**ちゃんとの話を説明した慎は、跨いで座っていた椅子の背もたれに顎肘立てた。



「せやけどそれって、よぉ俺らの会社のスポンサーやってくれとる企業の社長さんやろぉ…??」



「あぁ…。」



「そんなんサッサと誤解解いたら良いやん。」



「………なんやけどなぁ…。」




偶然、一緒やった時に**ちゃんと会うた。



固まりつつも、冷静になろうとしとるのが伺える、そんな状況やった。



顔向けできんことは何1つなかったけど、**ちゃんが信じてくれてるんが嬉しくて、紹介しようとしたちょうどその時、



俺の腕に組まれていた腕が首に回されて、頬に引き寄せられた向こうの顔。



べったりくっついてきた社長さんが**ちゃんに意味ありげに送った笑顔に、



「うわーんっっっ!!!」



と逆上して半泣き状態で走り去ったんやった。





「ヒドイです“松田さん”!」



と、今度は故意に強調された呼び方を残して……。





















膝詰め談判って、こんな感じか…??




俺らは今、**ちゃんの楽屋の畳に正座で向かい合うとる…。




気は重かったけど、誤解解くなら早いほうがえぇと思うて、仕事の合間に出来た時間に楽屋をノックした。




「事前に言うとけばこない苦しめんでも良かったのに…、ホンマごめんな…。」




開口一番、誤解であることを伝えたんやけど、
耳を塞いだり泣き出したりで、心ここにあらずっちゅー感じやった。




「わ…っ、わかっ、わかれ話っするのに…っ、そんっな気を…つかわなくても…っ、いじゃ…、いいじゃないっですかぁっ!」



「ちょ…、1回落ち着いてや**ちゃん…。」



話の中に食い違いがあったとはいえ、
長年一緒の相方に五寸釘のごとく決定打を押されとる**ちゃんは、完全に冷静さを欠いどった。




「で、でも…っ!ホントはわっ別れたくな…っ!ず…ぅとっ、たかったかみっ隆実さんと、一緒にいたかった…っ!のに…っ!」



「**ちゃん、とりあえず1回深呼吸しよや…??」




「こ…っこんなっ、に、好きになちゃっっ……って…!わ、別れられっわけ、ないじゃないですかぁー…っ!
はっ……んんっ!!!」




どうにも言葉の止まらん**ちゃんに、俺はそのまま深いキスを落とした。




いきなり頭を引き寄せての深いキスに、嗚咽と一緒に息を飲みこむ。




最初は暴れとった**ちゃんも
しばらくしたら、その抵抗もなくなった。








「…はぁ………っ。」



唇を離すと、**ちゃんの熱い吐息が漏れる…。




落ち着きを取り戻した**ちゃんに、俺は1番重要な事を伝えた。




「あんな……??一緒にいた人はスポンサーの社長さんなんやけど、生物学的な性別は“男性”やで??」




「……………はっ…??ヒクッ!」




かなり間の抜けた声と思い出したよぉに出たしゃっくり。




「本人女性や思うとるのに、あの場で男性なん説明は出来んで、どの道あの時は言えんかったんやけど…。」




「…………ヒクッ!」



「“ピュアで可愛い彼女じゃない??”言うてたで??」




あん時の情景を思い出すと苦笑が零れる俺は、ポンと**ちゃんの頭を叩いた。




そんで静かに、自分の気持ちを紡いだ。




「えぇか…??俺が付き合うてるんは**ちゃんだけやし、別れる必要もない。」



「………。」



「俺は慎と違うて器用な方と違うから……、もしかしたら知らんとこで**ちゃんの痛み分かってやれん時もあるかもしれん。
……でも俺は、ずっと**ちゃんと一緒にいたいと、思うとるで…??」



「………私も…っ、ずっと隆実さんの側にいたいです…っっっ!!!」




泣きじゃくった顔した**ちゃんが飛び込んできて、受け止めた俺達は、
しばらく二人でお互いの体温を感じとるのやった。




言葉はいらん、トクントクンと波打つ互いの心音を聞いて…。













【fin.】

2009'06.29   KAHIME.

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