雅季

□夏の日の物語
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それが僕にはとってもびっくりして。


でもなんかあったかいような気がして、
思わず笑ってしまったんだけど…。


その子はそんな様子を気にすることもなく、
ガラス細工のその塔を楽しそうに見つめていた。




「そんなに気に入った??」


「うん!きれーっ!!」


「じゃああげるよ。」


「くれるのー??」


「うん、あげる。」


「ありがとー!!!」


僕はリュックサックからキーホルダーを外して
小さな手の上に置いた。


その子はそれを覗き込んだり、太陽にかざしたりしていたけれど、

それがとても楽しそうで、
僕は会話を交わしながら
ずっとそんな表情をみていた。














「あっ!おむかえきたっ!」


そう言ってその子は立ち上がって砂を払った。


確かに耳を澄ませば、誰かを呼ぶ声が聞こえる。
その子は僕にお礼を言って、「じゃーまたねっ!」と駆け出していった。



その背中を見送りながら、僕もゆっくり立ち上がると
急に前にいた背中が振り返り、大きな声で呼びかけた。


「ぜったいー!おおきくなったらー!いっしょにいこーねー!!!」


そう言ってぶんぶん大きく手を振って、
そのまま坂道を駆け上がっていった。


もう会うこともないと分かっていたけど、
僕はその後ろ姿に、小さく手を振った。






結局家に着いた頃には正午を回っていて、
両親と要さん、修一兄さんに延々お説教をされ、
僕には結局、当分のあいだ外出禁止令が敷かれた。




















――――――――――――


「…ねぇ、まだ??」


「もうちょっとだけっ!」


「…映画行くだけでしょ?」


「だって、久しぶりに雅季くんと出かけられるんだもん!
おしゃれして行きたいじゃないっ!」


「ハイハイ…。」


「あと5分だけだから〜☆」



最近は学校行事と期末テストがあったから、
今日はひさしぶりに雅季くんと2人で出掛ける。


なのに、着ていく服を決めるのに時間がかかって、
時間になっても降りてこない私を
雅季くんが部屋に呼びに来たのが数分前。



午前中、部屋の掃除をし始めたら
なんか止まらなくなっちゃって…。


こんな事なら、昨日の内に服だけ決めとくんだったな〜…。



リップやハンカチを鞄に入れていると、
私の椅子に座った雅季くんの目線が
机に出ているものに留まっていた。




「あ、それ??綺麗でしょ☆部屋の掃除してたら出てきたの。」



荷物を入れた鞄を持って、
雅季くんの座っている側まで行って覗き込んだ。







「知ってる??エッフェル塔ってね、昼間と夜とでは長さが違うんだよ☆」







「……………どうしたの、これ…。」


なんでか、心なし驚いているように見える。


「初恋の男の子がくれたの。
何歳の時だったかな〜…??私少し遠くまで遊びに行ったら迷子になっちゃってね。
その時ずっと一緒にいてくれた男の子がくれたんだ☆」



雅季くんは、何も言わなかった。




「妬けた…??」


って、ちょっと悪戯っぽく聞いてみたら、
別に…。っていつも通りの答えが返ってきた。


でも、その言葉は
いつもより優しい声色で私の耳に届いた。




「そういえば、雅季くんの初恋って、何歳くらいだった??」


聞いた後、答えてくれるわけないか、と思ったのに、


「……5歳。」


って雅季くんが答えたから
なんかちょっと面白くなくて、


私は、ふーん。と言って先に部屋を出た。




「妬けた?」


少しして、私の隣に並んだ雅季くんが
どこか楽しそうに覗き込んできて…。


その顔が何ともかっこよく見えて、
私は負けを認めた。


「…残念ながら……。」



「残念がる必要なんてないのに。」


「は…??」


言っている意味が良く分からなくて、
私はぽかんと立ち止まる。


雅季くんはそのままスタスタ玄関に向かって歩いて行って、
着いてこない私の方を振り返って、どこか嬉しそうに笑った。





「一緒に行くんでしょ?」







何か意味があるかのような、その口ぶり。



結局雅季くんの言わんとしていることは分からなかったけど、
私は雅季くんに駆け寄って、2人で出かけた。











遠い昔の2人の記憶が出会うのは、
もうそう遠くない未来。













【fin.】

08'09.28   KAHIME.

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