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□ばれんたいん
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朝6時。
土方は朝練に行くために、ある通りで友達を待っていた。


「…遅ぇな、あいつ…」


土方は時計を見ながら、ぼんやりと空を見つめる。
すると、後ろから待ち人ではない可愛いらしい声がした。


「ひっ土方君!おはようっ」

「…あぁ、はよ」


長い髪を風に靡かせながら走ってくるその女の子は、確かクラスメイトだったなと土方は思い出す。
しかし中々来ない待ち人であり好きな相手でもある沖田ではなく、あまりよく知らない女子だったことに内心ガッカリした。


「土方君は、今から朝練…?」

「あぁ」

「じゃあこれっ…貰ってほしいなって…」


顔を真っ赤に染めて無理矢理渡された、可愛くラッピングされたハート型の箱を見る。
女の子は思い詰めたような表情をしているが、土方はよく分かっていなかった。


「?なんだこれ?」

「あっ…今日バレンタインなの…」

「…あぁ!」


今日はバレンタイン。
そんなことはすっかり忘れてた。ってことはこの箱の中身はチョコレートか。
面倒なイベントきたな。下駄箱とか机の中とかあらゆる場所にチョコ入れられるもんな。


「それでっ…土方君…好きです…っ」

「……好き、ねぇ…」


土方は俯く女の子を一瞥した。


「悪ィけど、無理だ」

「え…?」

「アンタの気持ちだけは受け取っとく。早く学校行けよ」


土方はその小さな箱を鞄に入れた。
その対応に女の子は納得していないらしく、去らずに土方を睨みつけていた。
その形相は先程の茹蛸のような色の顔でなく、瞳孔が開きそうな位変わっていた。


「土方君…好きな子いるの…?」

「俺にだって好きなやつくらいいるさ」

「誰!?」

「すいやせん土方さん、遅れちまいましたー」


女の子が物凄い剣幕で詰め寄った瞬間、背後から聞き慣れた声がした。
土方は思わず振り返る。


「よぉ総悟、遅かったじゃねーか。どれだけ待ったと思ってんだよ」

「謝ったじゃないですか。今更ぐちぐち言うんじゃねーよ土方コノヤロー」

「待ってやったのに何その言い草!ほら、早くしねーと稽古にも遅れちまうぞ」


土方は沖田が近くに来たのを見計らって漸く歩き出した。沖田も膨れっ面で着いていく。

しかし女の子は行かせないとばかりに土方の腕を掴んだ。


「はぐらかさないで!誰なのよ!!」

「さっきとはえれぇ違いだな。その気はねぇって言ったはずだが」

「貴方の好きな人を聞いてるだけじゃない!」

「うるっせーな。今から朝練なんだよ。邪魔するな」

「…っ…!」


土方が見下したかのように視線を女の子に下げると、観念したかのように目に涙を溜めながら走って行った。

朝からこれかよ。だからバレンタインはイヤなんだ。去年もこんなんだったしな。


「…土方さん、行きますぜ」

「あぁ、悪いな」

「………」


沖田は膨れっ面を継続させたまま、学校まで歩いて行った。
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