明晰夢
□コこロ・・・ 〈完〉
2ページ/6ページ
「ただいま、ノエル」
バックを片手に私に話しかけるのは、1ヶ月前に私に拾ってくれた男の子。
ノエルっていうのは私の名前みたい。
名のない私に、少年は名前をくれた。
でも、私は「ありがとう」も言うことができない。
私の喉は生れたときからつぶれているようで、声を発したことは記憶のどこにもありはしないのだ。
「今日はね、子猫を見たんだよ。」
笑って話しかける少年。
―――― あぁ、名前を教えて・・・?
なんて、夢のまた夢。
あなたに話すことさえできないわ・・・。
― 5ヶ月後 ―
今日の彼の様子はおかしい。
いつもなら帰ってきたときに「ただいま、ノエル」って笑って言ってくれるのに、
・・・どうして・・・?
今日は私をチラッと見て、そっぽを向く。
―――― 機嫌でも悪いのかしら・・・?
その日、少年は何も話さなかった。
.