明晰夢

□蛾 [完]
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俺にはとびっきりの彼女がいる。


頭も良いし料理も上手い。

気もきいて、なにより美人だ。

なんでこんな出来の良い女と俺みたいな中卒の男が付き合っているのか自分でもわからない。

でも、1つだけわかることがあった。
今から俺はこの女に殺される。





電気の消えた暗い部屋にベッドの軋む音が異常に響く。


「起きてる?」

「あぁ、起きてるよ」


俺は隣にある窓のカーテンを少しだけ開ける。

今夜は満月だ。

優しい月明かりが美しく彼女を映し出す。

長い黒髪に白いキャミソール。

そして唇には紅色の口紅。


とたんに笑いが込み上げる。


口元を吊り上げて喉の奥で笑いながら、中々ベッドに入ってこない彼女を俺の腕へ導く。

細い彼女の髪を流して白い肌にキスを落とす。



額に、頬に、瞼に。



彼女はただ何も言わないでそれを受け止めた。

首元に痕を残す。


ある一点にいくつも、いくつも。


満足した頃、彼女は瞳に涙を浮かべて俺を見た。



おいおい。何て顔して俺を見てんだよ。

最初から俺を殺すつもりだったんだろ?




「ねぇ・・・」

「ん?」

「私のこと好き・・・?」



白い頬に涙が零れる。

月が翳り再び部屋を闇が包む。

きれいだ。と、そう思った。

口には出さず、あえて呑み込み、俺は彼女にキ
スをした。









それはまさに「甘いくちづけ」


体が熱く、息が乱れ、眠りに落ちるように落ちていった。


「死」なんて全く恐ろしいものじゃない。






なんせ、女のくちづけであの世に逝けるんだ。
世界一愛した女のくちづけで――――――――――
















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