戦国BASARA

□欠けた三日月
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聞こえるのは風のだけ。

自分の呼吸も、心の臓の音も聞こえない。

生きているかも分からない。

夜はそんな事を思わせるような闇を抱いている。


呑まれはしない。


もう染まっているのだから。

これ以上私の闇は濃くならない。


今日の暗殺は奥州の筆頭、伊達政宗。

もちろんお館様や真田様の為ならこの命など惜しくは無い。


ある程度忍としての腕はあるだろうけど軍の大将なんかに敵うなんて思ってない。


出来れば目を覚まされないうちに殺したいものだけど。


生憎猿飛隊長も遠くに偵察に行ってしまっていて引き受けるしかなかった。


奥州は武田より遙かに寒い。


今更ながら薄着で来たことを後悔した。

寒さに耐えながらも道を進んでいくと目的である城に到着。

敵にばれない様に注意を払って城に潜入した。

猿飛隊長みたいに立派な忍じゃないから猿飛隊長より多少は時間がかかる。


それがたまらなく嫌だった。

武田の為に力になりたいのにどうしてこうも足を引っ張ってしまうんだろう、と。



ふと気がつくと目の前に片倉小十郎の部屋。

これはまずいと思ってゆっくり慎重に先に進んだ。

この奥の突き当たりの部屋が伊達政宗の部屋だ。

神経を研ぎ澄まし部屋の襖を音を立てずに開けた。

今思ったが天井の道を通ればもっと楽に進めたのかも。


やっぱり修行不足か・・・。

それ以前の向き不向きの問題か。



(はぁ・・・)


心の中で溜め息をし、中に進んで行ったが伊達政宗は気がついていない。

変わらず寝息が聞こえる。



(別に恨みとかないけどね。)



お館様の為に死んでもらう。殺すに越した事はないだろう。

ゆっくりクナイを取り出し首筋に当てようと伊達政宗の顔を見た瞬間動きを止めてしまった。



(眼帯が・・・外れる)



眼帯の紐が緩くなっていて今にも落ちてしまいそうなくらいだった。


伊達政宗の右目は病でなくなった。


そう聞いたことがあった。

寝るときも眼帯を外さないなんてよっぽど見られたくないんだろう。



「可哀想な・・・人。」



皮肉を呟きまぁどうせ死ぬんだから関係ないだろうと再びクナイを構えた。


躊躇いが無い、とはいえない。

忍でも感情は捨て切れなかった。


殺しきれなかった。

だからその分自分はどうなってもいいから任務を失敗しないように毎回注意をして頑張った。

認められるようになってきて今は忍隊の副隊長にまでなった。


ここで終わりなのかもしれない。

人には限界がある。

私の限界はここまでなのかも知れない。



「・・・・・・」



どうしていつものように殺せないんだろう。

いつもなら殺す事に罪悪感なんて感じなかったのに。



「・・・馬鹿、みたい。」



忍失格ね。

伊達政宗を殺して私も死のうか。


これ以上この世界を生きていくには感情なんて要らない。


感情があると殺すのも躊躇う。


隙が出来て殺される。


それだけ。


忍にはそれだけで十分だ。


クナイをしまって月明かりに照らされている独眼竜の顔を見た。


やっぱり私には殺せないかも知れないな、なんて苦笑してしばらく月を眺めていた。


天守閣から見る月は格別だったけど敵大将の部屋って言うのが笑いもの。


そろそろ帰ろうと思って片膝を立てて立ち上がろうとした。

最後に独眼竜の顔を見て静かに眼帯を直した。


起きたら怒るんだろうね。


独眼竜は誰にも触らせないって聞いたことがある。


一番近くに居る片倉小十郎は別としても。

見ず知らずの私が触ったなんてわかったらきっと一瞬で殺されるね。

優しくきゅっと眼帯の紐を結って立ち上がった。


任務失敗と伝えなければいけない。

帰る足取りが重い。

お館様にも真田様にも猿飛隊長にも迷惑をかけてしまう・・・。

今だったらまだ殺れる。

だけどもういい・・・か。

殺る気も失せた。



「・・・・・・」



三日月が怖いくらいに大きく見えた。

満月より三日月の方が私は好きなのかも。

満月は完璧すぎて、怖い。

立ち上がろうとしたとき私の腕を誰かが掴むのが分かった。









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