愛桜―アイザクラ―
□第六幕
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羽織を無駄にかっこよく靡かせ廊下を歩くは人の安眠を邪魔しようとせん鬼、いや、悪魔。
その斜め後ろに控えるはなんだかんだ言って悪魔の味方をしてしまう雉
平助に悪いと心の中で謝る左之だったがその反面面白そう、と言う気持ちもあったりなかったり。
「平助よ、一人で暇してるのは死ぬほど辛い!それをオニーサンたちが解消してやろう。」
「(いや、暇なのは髏輝だけだろうよ。平助は今頃夢ン中だぜ。)」
んな左之の心の中を髏輝が読めるわけもなく。
いざ!!と勢い良くふすまをスパッ!と開けた髏輝。
しかし余程深い眠りなのか平助は起きる気配がない。
それが面白くないのか髏輝はムッと形のいい眉を寄せ若干不機嫌になった。
髏輝は人の事を第一に考える良く出来た人間だ。
それは皆認めていて髏輝の信頼に直結するだろう。
しかし、されど人間。
暇、と言うものには勝てないらしい。
現に今まさに暇している髏輝は平助がすやすやと眠る姿を見て滅多に機嫌を損ねない彼女なのに今は不機嫌オーラが滲み出ている。
いつもより少し幼く見える髏輝の姿に左之は苦笑した。
「そろそろ起きてやれよ、平助。」
もちろんぐっすりな平助にそんな言葉が届くはずもなく、彼は未だに夢の中。
「もう、許さないからな。」
ふんっ、と顔を背けた髏輝はすぐにニヤリと笑った。
嫌な予感しかしない左之は引きつった笑みを浮かべながら二、三歩後ずさる。
「オニーサンのモーニングコールを無視するやつは仕置きだ!!」
ていやぁ!と思いっきり平助の元へ飛び込む髏輝。
左之が声をかけた時には既に遅く、髏輝が宙を舞っているところだった。
「ぐはっ!!!」
「おはよーヘースケ君?こんな時間まで寝るとは・・・・」
武士の恥っ!と訳のわからないことを言いながら平助の腹をバシバシ叩く。
「さ、左之さん・・・・っ!たずげて・・・・っ!」
死ぬっ!と左之に助けを求める平助だったが左之は諦めろ、と冷たく見放した。
「てゆーか何で二人共俺の部屋来たわけ!?」
仕方なしに布団をたたみ、座布団を用意した平助。
髏輝は満足そうに笑いながら腰掛けている。
「暇だったからだよ平助くん!」
「そのキャラ疲れるからやめろよー」
「うん、わかった」
「はやっ」
「実はこれやってる本人も疲れるんだわ。」
変なことするもんじゃないね。新さんすげぇ、と一人で喋る髏輝。
「なんかテンション高くね?髏輝。」
「あー・・・・あれだよ、あれ。管理人のスランプだよ。俺の口調わかんなくなったらしい。言わば迷子だよ、俺。」
「思いっきり私情じゃんかよっ!!」
「あとで苦情きても知らねぇかんな?」
「ちょ、そん時は一緒にクレーム処理しようよ左之さん!アンタそう言うの得意そうじゃんか!!」
「って言うかこの現実的なネタやめねぇ!?ギャク街道に進みそうだから!!」
この連載わりとシリアス甘めで進んでいく予定だからさ!と平助。
それにはいい加減このネタに飽きた髏輝がそうだな、と同意した。
「とにかく暇だったから来た。俺=平助じゃん?」
「ちょっと待てよ髏輝、何だその式。俺初めて聞くんだけど。」
って言うか勝手にイコールで結ぶなしっ!!
「だって初めて言ったしなぁ。まぁ、今度からそう言うことにしといて。んで、俺が暇=平助も暇、ってことで遊びに来たって訳。」
「随分と勝手な考えしてくれたなコノヤロー」
「いやだって俺と平助二娘一だし。」
「若干古いぞ髏輝。」
「え?マジ?」
先言ってよー左之さん。
「とにかく、愛してる、平助。」
無駄にいい声といい顔で言う髏輝に赤面する平助。
完全にからかわれてるな、平助のやつ。
と平助を憐れむ左之。
ちょっと言われてみたいと思ったのは秘密だ。
「今日一緒に寝ようぜー平助。」
「なっ・・・・!何言ってんだよ!!」
「え、いいじゃん。男同士親睦を深めるって言う」
「男って、」
「だって俺男だもんー」
「男が“だもん”なんて使うんじゃねぇよ。」
4人目の声が聞こえて襖の方を見ればこれまた仏頂面の副長が。
「あ、土方さん!」
久し振りーと手を振る髏輝に土方はため息を吐いた。
「一昨日抜け出して俺に説教くらったのは誰だ?」
「平助なにやってんだよだっせー」
「俺じゃねぇよ!」
「おめぇだよ、髏輝!!」
青筋を若干浮かべながら怒鳴る土方に髏輝はどーどー、と両手を前に出す。
ここで怒らせたら面倒だぞ、と左之に目配せをして髏輝と左之はこの部屋から一刻も早く脱出する事を考えた。
「大体毎日毎日・・・・俺だって暇じゃねぇんだぞ?」
はぁ、と二度目のため息をついた土方にため息をつきたいのはこっちだよ・・・と項垂れる平助。
とんだとばっちりだ、と平助は本日何度目になるか分からないため息をついた。
「あー・・・分かりましたよ。今回は引きます。」
「今回は、じゃなくて毎回素直に言う事聞いてくれ。」
「はいはいっと。じゃぁ平助、またあとでな。」
楽しかったぞ!と無邪気に笑いながらくしゃくしゃと平助の頭を撫でた。
髪を結ってなかった平助はぐしゃぐしゃになった髪の毛を直さずただぼーっとしていた。
頬が赤かったのは言うまでも無い。
(天然タラシだな、髏輝は。)
(土方さんもそう思います?)