愛桜―アイザクラ―
□第一幕
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「・・・・??」
今朝ようやく縛られていた身体を解放され、私は朝一番に皆さんが集まっているという広間へ呼び出された。
正確には連れ出された、と言った方が正しいかも知れないけど・・・。
広間へ案内(連行?)されて居る時向こう側の庭には無いはずの色が揺れた気がしてそっちを向いた。
するとそこには太陽の光で綺麗に光る黒髪と、漆黒の瞳の短髪の男性が縁側に微笑みながら腰掛けていた。
歩きながら見ていると彼は此方に気付いたようで一瞬ビックリしていたがすぐにまた微笑んで口元に人差し指を立てた。
そして口だけで秘密ね、と告げた彼に思わず頬を赤く染めてしまう。
赤くなった顔を見られたくなくて少し視線を下におろすと遠くではあったが微かに彼がクスクスと笑うのが分かった。
昨日の広間には居なかった彼。
誰だかわからないけど話したいと思ってしまった私。
誰かのお客様なのかも知れない。
「・・・・・・」
しばらく下を向いていると小鳥の鳴く声が聞こえてはっと顔を上げると縁側に腰掛けていた彼は立ち上がっていて、
空を見ていた視線を降ろしてまた私を見てきた。
その艶やかさにドキン、と心臓が跳ねた。
女の私から見てもその姿はとても綺麗で・・・男の人に使うのはどうかと思うけど本当に美しい人だと思った。
ぼーっとしてた私を見て彼はまた微笑み小さく手を振ってきた。
どこかへ行くのだろう。
もう彼の姿を見ることは出来ないと思うと寂しく思えた。
だが彼の挨拶をそんな顔で受け止めたくなく、笑顔で会釈をすると彼は満足そうに笑い庭を歩いて屯所の出口へ向かっていった。
本当に数分と言った間だったが私には一秒くらいにしか感じることが出来なかった。
彼が居た場所だけが別世界な感じさえした。
この世界の穢れを知らないような、本当に綺麗な場所。
あれは誰なんだろうか。
近藤さんに聞いてもいいのだろうか。
せめて、名前だけでも知りたい。
思いに耽っているといつの間にか立ち止まっていたらしく、案内してくれている人が「どうかしたかい?」と聞いてきて私は急いで後を追った。
私の頭の中はどうやら彼でいっぱいになってしまったらしいです。