愛桜―アイザクラ―
□第二幕
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「よぉ山崎ー生きてるかー??」
「髏輝、下品だぞ。」
髏輝は両手に茶を載せたお盆を持っていて手が開いてなかったため襖を足で開けたが一に下品だと叱られ仕方ないじゃん、手開いてないんだから。と口を尖らせた。
「藍川組長!?」
「髏輝って呼べって言ってるだろ。」
髏輝は両手に持ったお盆の上にある湯飲みを山崎に一つ取らせた。
「わざわざ申し訳ありません・・・・。」
「あー・・・んな事気にしなくていいって言ってるじゃねぇか。仲間だろ??」
「・・・・」
「(“部下”じゃなく“仲間”か。髏輝らしいな。)」
「んで?怪我の調子は?無理してないか?」
「組長と一緒にしないでください。自室療養と言われたらしっかり部屋で大人しくしています。」
「だって部屋ん中で一人で居てもつまらないだろ??」
「(・・・・・)・・・・、また髪の毛も無断で切ってしまったそうですね。」
優しい手つきで髏輝の髪の毛に触れる山崎。
お互いそう言うのは気にしない仲なのか分かんないが俺は如何すればいいのだろう、と一人内心焦る斎藤。
「だからなぁ、いちいち許可なんて必要ないだろ?」
「潜入捜査の時はどうするのですか。遊郭などで芸者などをする時困る場合が出てくるかと。」
「あー・・・正直ここまで短く切るつもりもなかったんだよ。」
「初耳だな。」
「皆にはどうせ笑われると思って言わなかったからな。
これグサッっと短く切りすぎちゃって仕方がねぇからその短い部分にあわせて周りも切ったわけ!
で、諜報活動には行ける範囲で頑張るさ。遊郭とかで女装を強いられるときは仕方ないから山崎に任せる。」
さも当然と言うような顔をして言う髏輝に二人は目を見開いて驚いている。
「なに、その阿呆面。」
「組長が動かなくてどうする。」
「斎藤さんお言う通りです。あなたは諜報活動に随一で長けている。それだけじゃない。戦闘能力も沖田さんと互角なほどだ。
組長が参加してくれなければいい情報は集まらないと思います。」
「遊郭で密な情報交換をする輩は少なくはない。山崎と組長のお前が動くのが策だと思わないか。」
「正直局長が居なければ零番組はまともな活動すらままならないと思います。
俺は組をまとめ、自ら先頭に立ち的確な指示を出してくれる組長を心から信頼し、尊敬しています。」
その言葉に今度は髏輝が目を見開く番だった。
ニ三度瞬きをし、髏輝は優しく微笑んだ。
「そうか・・・・こんな俺を山崎は信頼してくれているのか。なら話は早い。
さっき言ったとおり、遊郭は今の状況じゃ俺は客として潜入することしか出来ない。
女装し、目的の人物に近づく大役は山崎に任せる。」
いつもの優しい眼差しとは違い、組長としての顔を見せる髏輝に山崎は再び驚き斎藤は薄く笑っている。
「組長、お言葉ですが先程俺が言った言葉覚えていますか。」
「失礼だね山崎。俺がそんなに低脳だって言いたいの??」
「いえ。ですが今の話しからして俺と組長の話はかみあってないかと・・・。」
「ん?だってさ、山崎は俺のこと信頼してくれてるんだろ??だから俺も信頼してくれる仲間を頼るんだよ。
俺の私情で隊に迷惑かけることになるのは重々承知さ。だけど着いてきてくれる仲間が居るなら俺はその仲間に背を預けるだけだ。
山崎は俺の右腕だからな。頼りにしてる。」
「(全く・・このお方は・・・・)」
「俺に命預けてくれる仲間のことを俺に俺も命をかける。それが俺の我道だよ。」
「髏輝らしいな。」
「まぁね。で、山崎はいつから復帰できそうなんだ?」
「明日から復帰します。」
「無理は禁物だな。」
「組長・・!」
自分は一刻でも早く貴女の役に立ちたい、と言おうと思ったがグッと唇を噛み言葉を呑みこんだ山崎。
「また無理をして怪我でもされちゃ困る。そう焦らずゆっくりやってけ。ちゃんと待ってるから構いやしないさ。」
「髏輝も山崎の事を言えたものじゃない事を忘れるな。
本来なら今日まで部屋で安静にしてなければいけない筈なのだからな。」
「組長!!!」
斎藤の言葉を聞いた山崎は珍しく声を荒げた。
そんな山崎に斎藤驚き髏輝は苦笑していた。
「そう怒るなって。心配してくれてるのは嬉しいけどもう元気だから平気だ。」
「見た感じ先程から傷を庇う仕草などを見せていないから髏輝の言う事は確かだろう。
髏輝、そろそろ他の隊士の所に行かないと時間がいくらあっても足りないぞ。茶も冷める。」
「よく見てんな一って・・・・。まぁそんな訳で暇なときは手土産持ってまた顔出すから大人しくしてろよ、山崎。」
立ち上がりニッと笑いながらわしゃわしゃと山崎の頭を撫でる髏輝。
周りからすれば髪を乱しているようにしか見えないがどこか微笑ましい二人に一は笑った。
山崎も髏輝の性格を考え抵抗するのも無駄だろうと思い照れくさそうに苦笑した。
「他の奴等は雑魚寝隊だからな・・・長話は出来ねぇな。ってか一、お盆一つ持てよ。」
「断る。土方さんの命令はあくまで髏輝の様態が急変してもすぐに人を呼べるように監視をしろとの事だ。」
「ほんと副長バカだね一。」
「何か言ったか??」
刀に手をかけながら言う斎藤に髏輝はあっ!と声をあげた。
「そう言えば俺刀一本も差してねぇや。」
これにはもう呆れるしかない二人。
いつ命が狙われるか分からない組織の一員なのに脇差や懐刀も一本も持たない、言わば丸腰なのだ。
髏輝は遊郭などの刀を持っていられない場所で万が一何があってもいいよう護身術や武術も嗜んでいる。
それを知っている為苦笑程度で済むが屯所内で丸腰の組長もどうかと思う。
「ちょっと取りに行ってくる。」
「打刀にしておけ。屯所内で大太刀は困る。」
「あいよ。」