愛桜―アイザクラ―

□第五幕
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「おや髏輝さんお散歩ですかい。」


「あら髏輝さんやない。お久しゅう。」


「髏輝兄ちゃんまた暇してんのかー??」


「髏輝はんまたお店の方に遊びに来てくださいなんし。」

















「組長あなたどんだけ町に知り合いが居るんですか・・・」



髏輝に腕を引っ張られ渋々町に出てきた山崎。

人通りが多いところや賑わっているところなどが若干苦手な山崎にとって町は余りいい印象はない。

早く帰りたい気持ちもあるがこのまま髏輝と一緒に過ごしていたいとも思う山崎。



「なんか自然と仲良くなるんだよ。でも悪い事じゃないからいいだろ?」


「そうですが・・・」


「そう言えば山崎さ―――あ?」


「どうかしましたか??」



二人で話しながら歩いていると少し前に浅葱色の羽織が見えた。



「今日の昼の巡察は三番組だっけか??」


「そうだと思います。雪村君も同行してるとの事ですが。」


「あー・・・そうだよな、もう外出出来るんだもんなぁ〜。随分前から外出許可出てるけど何か進展あったのか??」


「いえ。思うようには行ってないそうです。」


「人捜しだもんなぁ。なかなか見つからないのが普通だよなぁ・・・。俺も協力してやりたいけど綱道さんの事詳しくは知らないしなぁ。」


「しばらくは力になれそうにありませんよ。」


「あ?」


「蛤御門の警備を任されたとの情報です。」


「へぇ・・・会津からか??」


「えぇ。」


「・・・・忙しそうだなー・・・ってか面倒くせぇ。それよりさ、なんで山崎が俺にそれ言うわけ??普通俺も知ってない?その情報。」


「・・・・・」


「なーんか最近土方さん俺に仕事くれないよなぁ。信用してないのかね、俺のこと。」



少し冷めたように言う髏輝に緩く首を振る山崎。



「なにがちげぇんだよ。」


「副長は組長の目の心配をして俺に任務を任せているんです。」


「おいおい・・・ちょっと目が痛むくらいで任務に支障なんか出すかよ。」


「大事を取って、と言う事です。」


「ったくどこまで過保護なんだぁ?あの鬼副長は。」


「それほど居てもらわなくては困る存在なんですよ、組長は。」


「ふーん。あっそう・・・でもそんなに仕事くれなくなると町の茶屋でこっそり働くようになるぞ、俺。」


「それは困ります。」


「じゃぁ「俺が代わりにやります」なんて言わないでくれるかな、山崎君。」


「!気付いていたんですか・・・。」


「もう長く一緒に居るだろ。山崎の性格くらいもう分かってるさ。」



無理はしないからちゃんと仕事くれな〜と言う髏輝に渋々頷く山崎。



「あ・・・なぁ山崎、」


「何ですか?」


「話戻るんだけどさ、千鶴さぁ、もし綱道さんが見つかったら江戸に帰るんだよな??」


「彼女が新選組に留まっている理由は綱道さん探しの為ですから。事が済めば彼女も自由の身かと・・・・」


「・・・千鶴は、・・・千鶴は仕方がなしにここに居るのかね。一刻も早くここから出たいと思ってるんかね。」


「組長?」


「俺がもし千鶴の立場だったら多分帰れないと思う。もう少しここに居たいって思うよ、きっと。

でも新選組からしてみれば自分はただの捕囚だから何も言えない。両者が探していた人物が見つかれば新選組にとって自分は用なし。

その時に「まだここに居たい。」なんて言い出せると思うか??」



「それはどう言う・・・」


「んー??だから、もしその時が来て、千鶴が俺と同じような気持ちだったら何とかしてあげようと思って。

やっぱりここって慣れると居心地いいと思うんだよな。独りよがりかも知れないけどさ。」


「・・・・俺もその時は協力します。」


「ほんと?一人で土方さんに立ち向かっていくのはちょいと心細いからね。」


「組「あ、千鶴じゃん。・・・・なにやってんだ?」」



前を見ると背に誰かを庇っている千鶴が居た。

前には男二人。

明らかに絡まれている。


その時千鶴の背が心なしか微かに震えている気がしてそれを見た髏輝は真剣な顔つきになり、人混みを掻き分けて急いで千鶴の所に向かっていった。

後から山崎が追ってくるのを確認してさっきより足を速め千鶴の所に行くと千鶴の後ろに見知った顔が。



「千鶴。」


「・・・ぇ、あ髏輝さん!?」



どうして、と言おうとした千鶴の言葉を遮るように髏輝は千鶴の肩を一度ぽんと叩いてから

そのまま千鶴と千鶴の後ろに居た女の子を自分の背に隠した。


千鶴達の後ろには既に山崎が居て二人を守るようにと髏輝が目で送ると山崎は静かに小さく頷いた。



「なんだテメェは!」


「邪魔すんのか!?殺されてぇのかお前!」


「お楽しみの所申し訳ないね。でもこの子等俺の従姉妹だからさ。残念だけどまだ嫁には出せないかな。だから帰ってくれねぇ??」


「調子乗ってんじゃねぇぞ!」


「やんのかテメェ!」


「あんた達がやられるのを望んでんならその喧嘩買ってあげる。」


「テメェ後で泣いたって知らねぇからな!!!」


「・・・っは、どっちが。」



嘲笑う髏輝に男二人は一斉に殴りかかって来たが髏輝は全く動こうとせず後ろに居た千鶴は思わず叫んだ。



「髏輝さん!危ないですよ!!」



一歩踏み出そうとした千鶴の腕を掴んだ山崎は何も言わず首を横に振った。

でも、と言い返そうとした千鶴に女の子、基お千が明るく言った。



「大丈夫よ!だって髏輝だもの!!」


「え――??」



その時パシンッと乾いた音がして千鶴は勢い良く振り返ると男の拳を片手ずつ掴む髏輝の姿が。



「避けたら危ないし、男として名が廃るだろ。」


「髏輝さん!」


「お前等、二倍返しって言葉知ってるか??」



ニィと笑った髏輝は一人の鳩尾に拳を叩き込みそのまま回し蹴りを食らわし、

もう一人の男には鳩尾に膝蹴りをしてから綺麗な背負い投げを決めた。



「・・・・出直してきな。」



パンパンと袴を叩きながら少し殺気を込めてそう言うと男二人は覚えてろよ!と体を引きずりながら裏道へ逃げていった。





「さすが髏輝さんやわぁ。また惚れ直したさかい。」


「髏輝兄ちゃん柔術も出来んのかよ!今度俺にも教えてよ!」


「髏輝さんが居れば京も安心だなぁ。」



ワイワイと周りは騒ぎ出し皆髏輝の周りに集まってきた。



「今回は俺じゃないよ。この子が一番に行動したんだからこの子の勇気を褒めてあげて。」


「そうだよな!元々はアンタが庇ったんだもんな!」


「かっこよかったぜ、あんちゃん!!」


「い、いえ・・・そんな・・・・」


「でもあんまり無理するなよ、千鶴。」


「そうよ!あんなの私一人でなんとか出来たんだから!」


「お千・・・あんたが言えることじゃない。千鶴は助けてくれたんだからさ。」


「そ、そうね・・・。とにかくありがとう!助かったわ!」


「いいえ!」


「私は千。お千って呼んでね。」


「私は雪村千鶴です!で、こちらが藍川・・・「敬語は要らないわ。それにこっちは藍川髏輝でしょう。知ってるわよ。」あ、は・・・、うん。」



「諸士取調役兼監察方零番組組長の藍川髏輝。

密偵など裏方仕事に長けていてその才能から零番組基長方活動組の筆頭になり、人望も厚くて、仲間からの信頼もある。

町からの人気も新選組随一。有名よ。」


「髏輝さん・・・さすがです。」


「そう?あ、こっちは山崎ね。俺の懐刀兼相棒権恋仲の人。」


「組長、町でそんな誤解を招くような事言うと後で大変な事になりますよ・・・」


「山崎烝。零番組組長補佐の頭のきれる人。

常に冷静で臨機応変な行動が取れ、零番組組長が最も信頼する仲間、懐刀ってところかしら。」



「お千ちゃん詳しいね。」


「零番組は町でも有名なの。特に髏輝はね。それに髏輝も言ってたでしょ?従姉妹だって。」


「「は??」」


「その場凌ぎだと思った〜??あれ実はマジなんだよ。俺とお千は従姉妹。」


「だから大丈夫だって言ったのよ。髏輝は強いって分かってるから。」


「そうだったの!?髏輝さんも言って下さいよ!!」


「別に関係ないかなと思ったからさ。お千もすぐどっか行くと思ってたし・・・」


「教えるほど私には価値がないって言いたいの!?」


「そうじゃないって。だから、滅多に会うことないだろうしと思っただけ。」


「まぁそうね。ここで千鶴と会ったのも何かの縁ね。これからもよろしく♪」


「よ、よろしくね。」


「じゃぁ私はこれで。今度屯所にでも遊びに行こうかしら。」


「それだけはだめだよ千。男所帯だからな。」


「だって髏輝が守ってくれるんでしょう??」


「・・・はぁ、お千には敵わないなぁ。」


「ふふっ!じゃぁね!」


「うん。」



お千は小走りで人混みの中に消えていった。



「組長に従姉妹が居たなんて聞いてませんよ。」


「だって言ってねぇもん。」


「・・・はぁ・・・」


「髏輝、それに山崎、何をしている。」


「斎藤さん!」


「よぉ一。巡察ご苦労さん。」


「髏輝、答えになっていない。」


「何で居るかって??山崎と散歩してたら千鶴が女の子庇っててさー、助けてた。」


「千鶴、何故俺を呼ばなかった。今回は偶然髏輝が通ったからよかったものの・・・」


「斎藤さん取り調べしてましたし・・・「迷惑かけたくなかったんだろ、千鶴は。許してやれよ一。」


「・・・・・・・」


「千鶴は俺達と一緒に戻るか??」


「一旦そうした方がいいだろう。髏輝、任せていいか。」


「はいよ。じゃぁ千鶴は俺等と一緒に帰宅ね。」


「はい。」


「山崎も、帰ろっか。」


「御意。」



山崎と髏輝は千鶴を間に挟み、斎藤より一足先に屯所に戻っていった。











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