薄桜鬼

□崩れた関係
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「もうあっという間に冬、かぁ。」



冬って言うと一番にはやっぱり雪だったりクリスマスだったり素敵なことを連想する。

だけどそんなことも言ってられないのが現実だったりするわけで。



「・・・・寒い。」



とにかく寒いのだ。


まだ真冬ではないというのにこの寒さ。

冬を越せるか心配になってくるほどだ。


寒がりな私には冬って言うのは本当に辛くて部活どころじゃないのに・・・・。



「今日の部活はここまでだ。」


「(やっと終わった・・・。)」



剣道着を脱げばひんやりとした空気が体を掠める。

汗を拭いて早々と制服に着替えるが今度は足が寒い。



「平助くん、いいなぁ。」


「?何が?」


「ズボン。」


「あぁ、寒そうッスね、先輩。」



だからって貸せないっスよ。って言われた。

そりゃそうだけど真面目に貸せないとか言って来た平助君が可愛かった。



「竹刀、冬だと痛いね。」



防具の上からだとしてもなんか、痛い。



「斎藤先輩容赦ないんだよなー」


「やっぱりそうなの?でも平助くんに期待してるからじゃない?」


「そうだったら嬉しいんだけどさー」


「違うの?」


「いや、よくわかんないけど他にも色々あると思う・・。(現に睨まれてるしね、俺。)」


「?」


「(鈍い・・・。)じゃぁ俺帰るわ。」


「うんお疲れ。」


「お疲れ様デシタ。」



エナメルのバックを肩にかけて平助君が格技場から出て行った。

気付けば他の人ももう居なくて最後に千鶴ちゃんが挨拶してきて格技場は静かになった。



「私もかーえろ。」


「ユメ、」


「あ、一ちゃん。」


「ちゃん付けで呼ぶなと言っている。」


「昔から呼んでるんだからなかなか直らないよ。」


「・・・・・・。」


「・・・・・一ちゃんてさ、案外単純だよね。やっぱり男ってそう言うものなの?」


「・・・・言うな。」



頬を少しだけ染めながら言う一ちゃん。

説得力皆無だね。


自惚れかも知れないけどきっと一ちゃんは"昔から"って言葉に引っ掛かったんだと思う。

やっぱり、単純。



「一ちゃんって呼ばせてくれなかったら斎藤くんって呼ぶ。」


「極端だな。」



呆れた風に笑う一ちゃん。

かっこいいなぁ、相変わらず。



「因みに斎藤くんだとクラスメイトレベルだよ。」


「随分と落ち込まれるんだな。しかしなかなか直らないんだろう?」


「・・・一ちゃん意地悪だね。」


「昔から、だ。」


「うん、知ってるよ。」



一ちゃんとは幼稚園に入る前から仲がよかった気がする。


小さい頃の写真を見ても必ず私の隣には一ちゃんが居た。

出かけるのも一ちゃんのお家と一緒。


親同士も仲がよかったからとにかくいつでも一緒だった。


一ちゃんは昔からこんなんで本当に静かな子だったと思う。

私が泣けば泣き止むまでそっと隣に居てくれたし男の子にいじめられれば守ってくれた。


そんな一ちゃんが大好きだった。

小学校に上がってもその関係は変わらなかったし何より一ちゃんが拒むことをしなかったからそれが凄く嬉しかった。


中学校も一緒。

関係も決して変わらなかった。


友達に「付き合ってるの?」とか聞かれたけどそんなんじゃないからちゃんと説明はした。

一ちゃんもきっと同じこと聞かれてたと思うけど返しは私と一緒なはずだったから。



「帰ろっか。」


「そうだな。」



部室にも鍵かけして、最後に格技場に鍵をかけて学校から出た。


別に一緒に帰る約束とかしてるわけじゃなくて、帰る時間が一緒だったら一緒に帰るだけ。

一ちゃんとはそう言う関係。



「寒い。いいなぁ、ズボンー」


「仕方ないだろう、学校指定なんだから。」


「そうなんだけど女子にもせめて選ばせてくれればいいのに。」


「ズボンを選ぶ女子はそうそう居ないだろう。」


「そうなんだけどね。」


「その方が、似合っている。」


「え?」


「・・・なんでもない。」


「一ちゃんってさぁ、周りの目とか気にしないよね。」


「気にする必要があるのか?」


「そう言うわけじゃないんだけどなんていうのかな・・・普通気にする?」


「疑問系で俺に返すな。それに周囲がどう思おうが事実は変わらない。」



そうだよね、って言えなかった。

こんなに想っていても関係は変わらないんだもん。


幼馴染って得してるようで損してる。


ねぇ、そう思わない?



「ユメ?」


「あ、ううん。なんでもない。長い付き合いだなぁ、と思って。」


「確かに、な。」


「もう10年以上一緒に居るね。」


「腐れ縁ってやつか。」


「でもいつか一ちゃんに彼女が出来たら離れなきゃね。」


「何故」


「何故って・・・そりゃ彼女が居るからでしょ。」


「よくわからん。」


「一ちゃんかっこいいのに付き合ったことないんだもんね。」


「興味が無い。」


「そっ、か。」



これじゃ実らないもの当然、か。



「俺には心に決めた人がいる。」


「え!?初耳なんだけど。」


「誰にも言った事が無いからな。」


「幼馴染の特権ってやつ?」


「まぁ、そんなもんだ。」


「それで?私の知ってる人?」



それしかないか。

知ってる人の名前が一ちゃんの口から出てきたらきっと辛いんだろうなぁ。


泣かないようにしなくちゃ。

もう一ちゃんに頼っちゃだめ。


一ちゃん離れだ。

変な言い方だけど。出来るかな、私。



「・・・・・」


「ユメ?何泣いてるんだ。」


「えっ?」


「ほら、」



そう言って一ちゃんは私の涙を拭ってくれたらしい。


泣いてたんだ、私。

泣かないって決めたのに言われる前から泣くなんて、へんなの。



「・・・ごめんね一ちゃん」


「何がだ。」


「私ねっ・・・一ちゃん離れ、できそう、に・・・ない」


「・・・・・。」


「だって、ね、私一ちゃんが居ないときっと生きていけない・・・!」


「・・・・知ってる。」


「・・・っ朝、一ちゃんが朝練だから、て起こしてくれなくちゃ、絶対遅刻するもん。」


「知ってる。」


「勉強だって一ちゃんのノートと説明がなかったらついていけないもん。」


「だろうな。」


「こんな事言って一ちゃんの事言葉で縛り付けてる、て、分かってる。分かってるよ・・・。でも一ちゃんが居ないと私、ダメなの・・・」




こんな事言って、ごめんね。


言葉にしようと思ったのに言葉にならなかった。


肩を優しく掴まれてそのまま抱き寄せられる。

温かくて何より安心する。


涙なんか驚いたのと安心したのでとっくに引っ込んだ。



「・・・・・・、長い付き合いで、泣き虫で、強がりで、他人思いで、人当たりが良くて、不器用で、しかし明るく元気な、人。」


「?私の事?」



でもちょっと買い被りすぎかな。



「そうだ。それと同時に慕う人でもある。」


「・・・一、ちゃん。」


「好きだ。」


「え?」


「好き、なんだ。俺はユメに、依存してる。」



体に一ちゃんの声が響く。

心地よい、一番好きな声。



「こんなに恋しくて、愛おしくて、やまない。」



ちゅ、と軽いリップ音が弾けて驚いて顔を上げれば瞼に一つ、頬に一つとキスの雨。

もう私と一ちゃんの間にはずっと崩れることのなかった幼馴染の関係は無かった。

































































(幼馴染な関係は星空に弾けた。)


FIN.

10.11.16





零音様リクで斎藤さん甘でした!

甘・・・くはない気がする・・・('・ω・`)
甘が書けなくなりました^p^

PCの調子が悪くて二本出来ちゃったので
一本にまとめました。

左之さんの登場はカットです←



イベリク全て消化完了!
次はイベントに沿った小説が書けるといいなぁと思いました。

反省しております・・・orz

リクしてくださった零音様ありがとうございました。










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