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□Day that met you
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弾ける音がした。鮮明に宙へと飛び散る赤色を綺麗だなんておもえない。
崩れる音がした。目前で支えを失い地に伏せた影に理解なんてできない。
「あ…ッ」
―私は、唯一の肉親である父を失った。


「くそっ、何でオレがこんな目に遭わなきゃいけねーんだよ!」

ライマ国第一王位継承者であるルーク・フォン・ファブレは森の中を駆けていた。
一年中雪が降り積もる霊峰アブソールの麓、景色は銀世界では無いものの走る彼の吐き出す息は白い。
話しは少し変わるがルークは勉学を好む方ではない。地位のせいで人より多くの知識を求められ、問われ。正直言えばうんざりだった。
出来ることなら勉学の時間を伝えにくるメイドに「うぜーんだよ!」とお得意の口癖を言ってみたいほどに。
話しを戻そう、しかしながらそんな彼の知識でも、そこらの人間よりは十二分に長けていた。知識はもちろん、世界状況は嫌でも耳に入れさせられる。
この霊峰アブソール近くの村が、ライマ国にとっては敵国に値するウリズン帝国に星晶強奪の的とされていることも。
ここへ向かう途中、剣の師匠であるヴァンが「日が暮れる前に通り過ぎる」と言ったのをルークは覚えている。
しかし今はどうだ。陽が傾いている所かしっかりとウリズン帝国の騎士と村人との対立に巻き込まれ、
挙句にはヴァンと共に修行へ出ている弟のアッシュとも見事にはぐれてしまった。

ヴァンと修行に出ているとは言え、自分は王位第一継承者でアッシュは第二継承者だ。間違っても捕まる訳にはいかない。
そうでなくとも狙われることは避けたいのだ。狙われることになれば身の安全の為にとライマ国へ帰ることになるのは目に見えている。―修行を止めて。

「(冗談じゃねえ…!)」

やっとあの狭い城の中から出られたのだ。毎日毎日つまらない事を学ばされては外へも自由に出られず王位継承者としての自覚を持て、しっかりしろ、勉強しろと小言ばかり。
目的こそ勉学の為であったがルークからみればこの修行はやっと巡ってきた機会なのだ。

「…!………!」
「ん?」

叫ぶ様な声が耳に届いて自然と足がそちらへと向く。相手はウリズン帝国の騎士かもしれないため警戒しながら進めば、聞こえてきたのは少し高い少女の声だった。

「それ以上お父さんに近づかないで…!!」

少し潤いを含んだ声は乾いた空気によく響いた。自分とは真反対の水色の髪は短めで、年もそう変わらないだろう。
座り込んだ少女が睨み付けているのは前に立つ嫌な笑みを浮かべて少女を見下すウリズン帝国の騎士―いや、それよりも。
だらんと投げ出された腕はピクリとも動かない。沈んだ身体はまるで引き寄せられているかの様に地面に横たわっている
その、少女が必死に抱えている血塗れの人を見た瞬間、ルークは先ほどまでの考えも忘れて剣を抜いて飛び出していた。

「…へっ、ざまーみろっての」

肺へと吸い込んだ空気が冷たい。吐き出した言葉の割には肩で息をする自分に少し情けないとも思ったが無事に敵は全員蹴散らせたのでよしとする。
矛先の掠った頬からじわりと生緩い液体が滴るのが分かったがそれもすぐにこの低い気温の中では冷えてしまった。
グローブで乱暴に拭えば、ビリッと電気が走るかのように痛みだしたそれに思わず舌を打つ。

「発氣治癒功」

背中を向けていた相手の動く気配がしたと思えば、自分の頬に添えられた手から暖かい光が溢れ出す。

「っ!」

何すんだよ、と思わず言いそうになった。一息置けば相手が治癒術をかけてくれたのだと理解出来るのに、口走ってしまうのは反射とは言え悪い癖だろう。
しかしルークの言葉が空気を揺らすことは無かった。振り返った彼の緑色の瞳が、少女の服装を映したから。
今し方頬を拭った自分のグローブと比較出来ない程に汚した、赤いそれに。
ちらりと少女の奥へと視線をやれば、やはり彼は横たわったままで。「お父さん」と、彼女は言っていた。

「あの、よ…」

こういう場面に居合わせたことの無いルークは何と声をかければ良いか分からなかった。
気にすんな、何て言った所で無理なことは分かっているし、軽々しく言えるわけがなかった。
戸惑うルークを知ってか知らずが、紫色の瞳で見上げてきた少女は一度きゅっと口を結んでから微笑んだ。

「…ありがとう、ございます。」

涙を流しながら笑う目の前のやつに、理解できねえと思いながらも目を反らせなかった。


Day that met you

君と出会った日




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