短編小説A
□神の傀儡
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時として残酷なまでに潔く、時として残酷なまでに優しいあの御方……。
何故【こころ】あるヒトとして私を創られたのか?
【こころ】あるからこそ苦しく辛い……。
このように苦しむだけならば……このように辛いだけならば、いっそうの事【こころ】などなければよいのに……。
どんなに抵抗しても、どれだけ己を拒否し続けようとも、あの御方の意志によりあの御方のためだけに生かされ続ける。
この辛苦に満ちた世界に安住の地などあるのだろうか?いつの日にか訪れるかもしれない永眠の時以外安眠などできないかもしれない……。
これまで過酷な運命に耐えてきたがとうとう限界に達し、未来に見えるものは絶望のみとなってしまった。
「全知全能なる神よ! 何故、私をお創りになられたのでしょう?【こころ】あるモノとして、私だけ!? ……他のモノ達と同じただの【こころ】なき傀儡としてお創りにはなられなかったのですか?
答えなき問いだとしても問わずにはいられないこの思いから、どうする事もできないこの思いから、どうか……」
この運命から解放されるならば何でもしますと嘆願する。
『特別な傀儡よ。そんなに己の仕事が辛いか? 他の傀儡どもは何ともない様だが?』
わかっているがあえて神は問う。
「おお、マイ・ロード。恐れながら、それは他のモノが【こころ】なきモノだからでございます。【こころ】あるからこそ悩み考えます。悩んだところで仕事は仕事。必ず行なうべきものですが、己の感情というものが邪魔をするのです」
『……だからこそお前にしかできない仕事があるのではないか?』
「わかっています。しかし、その感情を殺して仕事をする事は辛すぎるのです」
涙を流し語る。
止まっているのではないかと錯覚しそうな光景はそのままに、静かに時は流れ、とうとう流し続けていた傀儡の涙が枯れ果てた。
『……わかった。お前はその苦悩から解放されたい様だが、お前には生きていてもらわねばならぬ……。その【こころ】と経験をもったままに……』
それを聞き、やはりこの過酷な運命は変わらないのか……。
傀儡はそう思った。
『だが、このままだとお前は今は未だ保っている【自己】も保てなくなってしまうだろう。それでは、【こころ】なき傀儡と変わりなくなってしまう。その前にお前に希望を与えよう。お前がこれまでの経験とその時の感情、これから増えるものも含め普段は封印される様にしよう。必要な時に必要な経験と感情が知識として蘇る様に……。これでよいか?』
「少しでもこの苦しみから解放されるのならば、どんな事でも構いません。ありがとうございます。」
傀儡は枯れ果てたと思った涙を新たに流れた。
今度は【喜び】の涙として。
=FIN.=