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□087 結局ムダに終わったけれど
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「あ、そうか。…ひょっとして俺のこと覚えてないですか?」
「…悪い」
それが最初の会話。
ねえ、始めて会った時のことをあなたは憶えていますか。
まだ一月も経っていないのに、随分昔のことのような気がする。
同じ学校の後輩だと告げると、
思い出せないと考え込む様子をみせた先輩。
そもそも思い出せるわけがない。
あなたの中には思い出なんてなかったんだから。
全く疑わない先輩のせいで、笑い出したいのを堪えて、落ち込んだふりをするのに苦労した。
(随分人が良いんですね。他人になんか興味ないくせに)
いつもそうだ。人の目も他人も気にしない。一人で凛と咲く花みたいなあなた。
その涼しい顔をめちゃくちゃに踏みにじったらさぞや気持ちが良いだろう、そんなことを考えている自分に気付きもせず。
本当にすまなそうに「…悪い」と謝られた。
(馬鹿な人)
「良いんです。俺は高階寛人って言います」
この名前を彼に刻みつけてやりたいと思った。
大切に大切にして、俺なしではいられないように、傷付けたい。
(ねえ、俺を見てよ。)
まずは警戒心をとこうと道化を演じながら、先ほど学校中を走って人を探したことを話した。
「ははっ…そんなに学校中走り回ったのか」
先輩は小さくふきだした。
眉間の皺が消えると、驚くほど屈託のなくあどけない顔になる。
(さあ、これからどうしてあげようか)
考えるとゾクゾクする。
始めて見た笑顔を綺麗だと思ってしまったけれど。
そうしたら傷つけることが怖くなるから、
自分の中に芽生えかけた柔らかいものには気付かなかいふりをした。
087 結局ムダに終わったけれど