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□「二度と戻らない時間」
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雨の匂い

赤い傘

またあの季節がやってくる










あれから少しだけ時間が過ぎた

「うわ降って来ちゃった」

「帰るなら傘貸してあげるわ」

「おばさん、ありがとう!」


月日の流れは容赦なく思い出を押し流していって


「そういえば、真琴から預かってた傘。あるのよね」

「え?なにそれ」

「呆れた。まあそれだけ立ち直れたってことかしら…はいこれ」

「あ、あたしの赤い傘」

「見ると思い出すからーって。わたしに預けたでしょう」

「あはっそうだったね」

「もうあれから二年か…」

「……」


まるで雨の向こう側で霞む景色のよう

今となっては
千昭の顔も声もほんわりとしか思い出せなくなってしまった













雨降るロビーには誰もいなかった。


「開くかな?」


ちょっとドキドキしながら傘をさす。
おばさんのおかげであまり痛んではいないようだった。


この傘は。
千昭との思い出が詰まっていたから、開きたくなかったのだ。


いつか三人で一緒に入って帰ったことがあった。
そのあと一度だけ「二人だと余裕あるな」なんて言いながら二人きりで相合傘をしたことが、あった。
だから一人ではさしたくなくて、それきり使ったことはなかった。



(もうへいき。もうふっきれたもの)



パッと赤い生地が伸びきった瞬間、ヒラヒラと落ちる小さな紙。




「? なにこれ」


レシートでもはさまってたのかな、拾ってみると懐かしい字が踊っていた。






『まことへ。昨日はかささんきゅ。晴れたらやきゅうやろうな』





いつの間に入れていたのだろうか。
隅の方には真琴をまねたらしい似顔絵まで描いてある。


「…ぁんのバカっ」

真琴ぐらい漢字で書きなさいよ、思いつく限りの悪口を言ってやりたかったのに、胸がいっぱいになって喉の奥が熱くなってしまう。

忘れたふりをしていた思い出はまだこんなにも新しかった。
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