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□勿忘草わすれなぐさ
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忘れようと

忘れ果てようとした


それでも


忘れえぬ想いがある








『勿忘草』




目の前で揺れる長い長い三編みを見るともなしに眺める。
さっき自分が編んだものだ。


ぱたり

ぱたり

暇そうにシュイは尾を左右にゆらす。


リークスはずっと研究書にかかりきりだ。

さっきは話しかけるとぽつぽつと応えてくれたのだが、研究に熱が入ってきたらしい。
周りが目に入らなくなっている。


真剣な横顔は嫌いではない。
邪魔したいとも思わない。

けれども、やっぱり目を見て話せたら良いとシュイは思った。
嫌そうに眉をしかめながらでも構わないから。


「暇なら帰ればよかろう」


振り返らないまま、不機嫌そうな声が聞こえた。
帰れというくせにしっぽはせわしなく揺れている。

気にかけてくれたらしい。思わずしっぽがぴんと上を向いた。

君は気づいているだろうか。
きっと無意識なんだろうね。何気ない君の言葉に、しぐさにどれほど私が救われているのか。
望まぬまま賛歌長候補になった自分。ある猫は媚びへつらい、またある猫は嫉妬し反発した。心にもない賞賛と心ない中傷はシュイを傷付けた。

ここにはそのどちらもない。

ただおだやかな時が流れてゆく。


「いいんだ。君のそばは居心地が良いから」

ありのままの君
ありのままでいられる自分
それがどれほど嬉しいことか。

「…そうか」

返ってきた応えには強い困惑の響きが混じっていた。
理解できないといった顔でこちらを眺めている。


「一区切りついたなら散歩に行かないかい」

「行かん!」

「…そうか」

結局邪魔をしてしまったらしい。
情けなくなって足元を見る。

すると慌てたような声がかかった。

「…もう少しあとなら」

「え?」

「もう少しで終わる。それまで待っていろ」

答えを待たずにリークスは手元に目を戻した。
シュイは耳を立ててうなずいた。


「リークス」

「…なんだ」

「ありがとう」

フン、と鼻で笑われたがシュイはかまわなかった。心があたたかくてほわほわしている。

その様子を盗み見ていたリークスが、ほっとしたように目を細めたことを、シュイは知らない。





061130


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