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□056 悲しいかと言うその声が
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「ん…?」
ゆるゆると開けた瞼に映った背中。
一護は大きく瞬きをした。
(めっずらし…)
すぐに一護の気配に気が付いて、文机に向かう伸びた背筋が振り返った。
「おはよう、一護」
「…はようございます」
おはようの挨拶をすると、どんな時でも間がぬけてしまうのはなんでだろう。
最近は下ろすことが珍しくなった前髪が頬に落ちる藍染を見ながら一護は思う。
情事を共にしたあとは藍染の部屋から自室に帰るのが常だが、昨夜はいつの間にか眠ってしまったらしい。
「起こさないんだな…」
ほんのりと驚きと喜びを滲んだ声で一護は言った。
寝顔を見ていたかったとか、そんな甘いことをいう相手ではないと百も承知だ。
だけど嬉しかった。
時折、全てを知った俺でさえ感激してしまいそうなくらい藍染は優しい。
自分に向けられる裏のない優しさに触れるたびに、全てを裏切っても彼の側にいたいと思う。
「疲れているようだったからね」
ひょうひょうと、藍染は自分には無関係のように答えた。
疲れた原因は間違いなく、昨夜の鬼畜ともいえる行為のせいなのだが。
正直に言ったらお仕置きが怖いと学んでいる一護はゴクンと唾を飲んだ。
藍染ほど相反する属性を合わせ持ち生きる人を、一護は知らない。
彼はぞっとするほど優しく自分を抱くかと思えば、恐ろしく底意地の悪いことも平気でする。
そして一護以外に容赦はしない。
笑いながら相手の喉を掻き切る男。
なのに、どれだけ彼がヒドイことをしようと、自分はきっと好きなのだ。
「あ、飴と鞭ってやつか…?」
ぼそっと言った独り言は、ちゃんと地獄耳に届いたらしい。
素早く伸びた腕が容赦なく一護のホッペタをつまんだ。
ぎゅ〜っと遠慮なくのばされる。
「いっ〜〜!?」
涙目で睨む一護を楽しそうに眺めて、つまんだまま藍染は一護の涙を舐めた。
そしてもう一度、一護の瞼に口付けてからようやく手を離す。
「痛かった…」
ヒリヒリする頬をなぜながら、なんで俺はここにいて、なんでこんなヤツが好きなのかと、今まで何万回も考えたことを思う。
「なあ、一護」
「なんだよ」
「悲しいかい?」
家族や友人と離れて。
藍染と共にあることを決めたこと。
「悲しいか」と言うその声が「後悔しているかい?」と一護には聞こえた。
(難儀なやつ)
一護は眉をひそめた。